山形浩生と池田信夫のけんか》電波とフレームはネットの華と言いますので、今回はちょっとだけ乗ってみる。
山形浩生が良くも悪くも「大人気ない」ということだけは否定しようがないと思うが、まあともあれ今回の論争に関しては山形浩生の方が不利ですな。池田信夫の文章をきちんと読みば、彼がプライバシーを否定していないことが明らかでしょう。だって、この人プライバシーに関して「自らの意見を何も表明していない」もの(だめじゃん)
山形浩生が挙げている池田の文章では他人の意見に対する引用と否定だけしか行われていなくて、池田信夫がプライバシーについて何を考えどうしたいのかという事に関しては何も書かれていない。それは、前掲の「山形浩生氏への公開質問状」でも同じ。たぶん、山形浩生は「コラムならば意見があるはず」と思って深読みしすぎたんでしょうな。
どうでもいいが、


「幻想だ」ということが、どうして「まちがっている」ことになるんですかね。いくら幻想でも、多くの人が信じれば正しいこともあります。吉本隆明の『共同幻想論』によれば国家も幻想ですが、そうすると国家も「まちがっている」のでしょうか。私は、プライバシーどころか近代的な「自我」そのものが幻想だと思っていますが、それは自我の存在を「否定する」ことをいささかも意味しません。「プライバシーがあらかじめ失われている」というのは、「日本の企業社会」についての事実判断であって、まちがっているとか否定するとかいう価値判断とは無関係です。

池田信夫山形浩生氏への公開質問状」より
という文章、明らかに変。「幻想だ」というのが「価値判断とは無関係」といってるくせに「多くの人が信じれば正しいこともあります」って明らかに矛盾してるんですが。まあ、論争なれしてないだけだとは思うんだけど、池田という人の主張の仕方はあまりにも下手すぎる。論争ってのは、ゲームの一種なので「読者の票(得点)をいかに集めるか」と「いかに穴のない主張ができるか」を常に意識する必要があると思う。山形浩生の物言いの良し悪しに関わらず、今回の公開質問状自体が池田信夫という人のダメさを顕わにしてしまっていることくらいは認識してほしいものだ。



次世代Crusoeのパフォーマンスは本物か》コンピュータ技術に興味のある人間なら誰しも注目していたにも関わらず、当初のバージョンでは大失敗してしまったCrusoeだが今回はかなりいけそうだ。私は普段Java使いだということもあって「動的コンパイル」のすごさを体感していることもあって、この窮地を凌げればかなりいけるのではないかと期待していたのだが、今回はその通りになりそうな感じだ。一般的にJavaは遅いと思われているが、現在のJava VMの多くはCrusoeと同じで動的に繰り返しの多いコードだけを最適化しネイティブコードに変換する。そのため、起動時には速度は出なくとも時間が経つにつれてだんだんと速くなり、特に数値演算などではC言語のように静的にコンパイルする場合よりも速くなることもある(なぜ、そのようなことが起こるかというと事前にコンパイルすると例えばif分岐の判定がループ中で常に変わらないとしてもその処理を省略できず常に判定せざるおえない)。実際、Crusoeのネイティブコードで静的コンパイルをしてもそれほど速度は上がらなかったという話もあった。
でも、最初は遅いんでしょとかエミュレーションが速いとは思えないいう批判はあるとは思うが、実際はIntelAMDなどのCPUも動的コンパイルに似たことを行っているのである。いわゆるx86系CPUというのは互換性の関係から古くからあるCISC的な命令をずっと使用している。しかし、CPUの技術的趨勢はRISCの勝利に終わった。そのため現在のx86系CPUの実体は、中身はRISCだが外からみたらCISCというもので、ハードウェアによる命令変換を行うようになっている。特に最近話題のVLIWにいたっては、命令設計で大幅に出せる速度が変わってくるため命令変換というものが重要になってくる可能性が高い。
だから技術的な見地から言えば、Crusoeもそれほど変なことをやっているわけではない。
しかし、CrusoeCMS(コード・モーフィング・ソフトウェア)による動的コンパイルは、あくまでソフトウェア的なものであるのでいろいろと面白いことができる。例えば、ソフトウェア書き換えによる速度向上。Java VMを追いかけていればその高速化のほどは知っているだろうと思うが、昔からソフトウェアの速度というと「アルゴリズムなどの見直しで速度を一万倍にすることも不可能ではないから小手先の最適化なんてするな」という話が出てくるほど設計を見直すことで速度が変わる。もちろんハードウェアの設計見直しをすれば同じじゃないかという話も理論的に可能であるが、実際には不可能だし設計が枯れる前に全く新しいCPUが発売されるだろう。Crusoeならば、最新版のCMSに入れ替えるだけで大幅に速度が向上する可能性がある。他にも、内部ハードウェアをまるっきり変えてもアプリケーションを買い換える必要がないとか、Javaバイトコード実行専用のCMSを入れることでJavaの高速実行を可能にするだとか、いろいろと考えられる(実際、AMDx86-64の実験用にCrusoeを使うという話もあった)。
ここ最近、PC用のCPUは大型、高速、高熱が続いてきたが、なんでもかんでも小さくなっている時代にそれは逆行していることは疑いなく、そういう意味でCrusoeは未来のPC用CPUの主役となりえるのではないかと私は考えているが……うまくいくことを願いたい。