理想現実ギャップと目的志向

システムを導入する際の業務改善のためにまず理想的な状況を考え現実と対比させるということがよく行われる。ここでは、それを「理想現実ギャップ」手法と呼ぶことにする。ここ最近年齢も上がったせいで上流工程的な仕事が増えてきているのだが、傍目から見ていてこれがまったくもって上手くいっているように思えない。もちろん、担当者の能力の問題という見方もあろうが、どうもそうではないようだ。

端的に言ってしまうと、理想現実ギャップ手法には以下の問題がある。

  • 理想が曖昧すぎて何をすればギャップが埋まるのかわからない
  • 設定される理想が実現可能かどうか確定できない
  • お客がその理想が実現されると思い込んでしまう

私が思うに、マルクス経済学などまさに理想現実ギャップ手法の問題が如実に表れた例ではないか。マルクスの提唱した「誰もが平等に生きられる社会」という共産主義は理想としては高尚だが、それに至る道筋はわからず、資源の制約がある以上非現実的であり、そして何よりマルクス主義を進めればその理想が実現されるのだと少なくない人々が思い込んだ。

では理想現実ギャップの代わりに何を使えばよいのか。それは「目的志向」である。ここでいう目的とは方向性のことであり、必ずしも量は考慮しなくてよい。目的の良いところは、ギャップを埋める必要がなく、実現可能な範囲で目的に適う方向へ進めばよいという点である。

実のところ、近代経済学というのは目的志向であり「資源を無駄を無くす」という方向性のみによって成立している。このように方向性が定められているならば、「資源の無駄をゼロにする」ということは不可能でも「今より資源の無駄を少しでも減らす」という改善策を策定することが可能なのである。

理想現実ギャップ手法による改善には理想的な環境が必要である。しかし、理想的なプロジェクトマネージャーなど存在しないか、存在してもそんなに安くは雇えないのである。