請負契約という矛盾

 クリーンルームに求められる清浄度の水準は半導体、医薬品、食品など製造するものの種類によりさまざまだ。カメラの場合、半導体である画像センサー(CCD、CMOS)の製造工程を除き、それほど厳しいクリーン度を要求されているわけではない。



 が、“ホコリが舞うクリーンルーム”というのはそもそも、ありえない。「クリーンルームに要求される水準は0・5ミクロンという超微細なチリが大気中にどれだけあるかで測られる。簡易的なものでは『可視塵埃なし』という設備もあるが、それはクリーンルームと言わない。ましてやホコリが舞っているのが見えるというのは、話にならない」とあるクリーンルーム設計者は語る。



 なぜ、こんな非常識が放置されているのか。それはクリーンルームの内部が、キヤノンにとって“治外法権”になっているためだ。



 請負契約は業務委託元の会社(キヤノン)が現場の請負会社に所属している作業者に直接指示、命令を行えない業務契約だ。仮に直接の指示を行えば偽装請負となり、労働者派遣法違反となる。そのため、キヤノン社員は、作業者を統括する請負会社の管理者に指示を出し、そこから現場の作業者に指示が流れることになる。

http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/523d7307d7465dc8c5293f541b6a0e3c/page/4/

この記事を読み始めたときは、キヤノンの悪癖を暴くような記事かと思ったが、最後まで読んで愕然とした。偽装派遣請負行為への取り締まり強化が招いた問題だったのである。

私の所属するシステム開発業界でも偽装請負は実質的には多数目撃される(それでも、以前と違い請負契約にも関わらず同一のプロジェクトルームで作業するようなことは厳しく制限されるようになったが)。それはSI企業と開発会社の関係だけでなく、発注するユーザ企業とSI企業間も同様である。というより、不確実性の塊とも言えるシステム開発において、本当に偽装請負行為を根絶したならば、確実にプロジェクトは失敗に追い込まれ、関係する誰もが損をすることは目に見えているからである。

先ごろ、多重派遣の問題がクローズアップされて以後、個人事業主としてシステム開発に携わる優秀なエンジニアをプロジェクトに加えることが困難になったり、多重派遣をさせないために小規模の派遣会社とは取引を辞めざるを得ない状況も発生している。どうにもこの多重派遣、偽装請負の問題は、関係者のニーズを無視したところで議論が行われ、まったく本質的でなくむしろ状況を悪化させる解決法がとられたように思えてならない。

経済学的に言えば、企業はある程度小さい単に分割された方が、競争が進みよい結果をもたらすわけだが、昨今の不況と法整備が重なった結果、企業を分割するコストが嵩み合併が促進され寡占状態が進むようにも見える。

建前の偽善ばかりが先行し、現実やデータを直視することを怠ってきたこの国の未来は暗い。