野口旭著「経済学を知らないエコノミストたち」を読む。怪しげなタイトルなので心配しながら買ったのだがすばらしい良書。タイトルだけ読むと、いい加減な事を言う「経済専門家」を実名を挙げて批判する後半の内容がメインのように思えてしまうが、第一章の「人々はなぜ経済学を嫌うのか」、「専門人としての役割を自覚していない『専門家』」にこそこの本の真の価値がある。この部分を読むだけで「経済学とは何なのか」「経済学は信用できるのか」「なぜエコノミストはみな違うことを言うのか」ということが理解できるようになっている。これから経済学を学ぶ人間なら絶対に読むべき内容だと思う。
実はこの本を買ったのは「まともな竹中平蔵批判」が読みたかったからである。知ってる人もいると思うが私は基本的に「竹中平蔵のファン」である。とはいうものの、黒木のなんでも掲示板での評判はイマイチ(ボロクソに言われないだけマシという話はある)だし、クルーグマンも「今の内閣の経済政策は失敗する」と言っていることもあって「ホントのところどうなのよ」ってのが知りたかったわけだ。しかし、ネット上でまともな批判を見たことはないし、主な批判者である金子勝キチガイだし(「経済学は間違ってる」とか「心を豊かにする経済学が必要」とかわけわからないことを言っていたのでどうかと思っていたのだがマルクス経済学出身という話を聞いて納得。そりゃ竹中は敵に決まってるわな。しかし、なんでテレビ局もマル経の人間よぶかなあ)、2chの経済版もレベルが低いし(どうも2ch経済版のトンデモを各個撃破するのを諦めたコテハンの人があらかた苺BBSに移ってしまったらしい)ちょっと困ってたところで、この本の名前を聞いたのでさっそくAmazonに注文してみたのである。
結論から言えば、竹中平蔵ってのは基本的に「サプライサイド屋」なわけだ。レーガン政権やサッチャー政権同様、構造改革をやって景気を回復させようと考えている。これ自体は良いことなのだが、問題は構造改革では「生産性は向上」しても「需給バランス」は改善しない、ひいては景気が回復しないということにある。
ビールの生産に例えて言おう。この場合、2倍の生産性向上とは「同じコストで2倍のビールを造れるようになる」ということである。しかし、2倍造れたとしても買い手(すなわち需要)がなければ売れはしない。
今の日本の状況はこの「需要不足で物が売れない→物の値段を下げざるおえない(デフレ)」という状況である。構造改革を行って生産性を向上させたって、需給バランスが改善しなければ景気は回復しない。ようするに「構造改革なくして景気回復なし」ってのは嘘っぱちだったわけだ。
この需給バランスを回復するためには「ただ金利を下げるだけでよい」。ただ、金利を下げれば需給バランスは回復するにも関わらず金利は0以下にはできないので問題が起こる。ここらへんの話がクルーグマンの論文の主題となるが、ここでは述べない。ようするに、竹中平蔵への批判は「今は構造改革なんてやってる場合じゃないでしょ」ということに尽きる。



普通だったら、ここで竹中降ろしとなるべきなのだが、閣僚入りしたのが竹中平蔵で本当によかったと私は思う。少なくとも竹中平蔵は、インフレターゲティングの批判者ではないし、日銀の政策には非常に批判的だし、学者とは思えないほど政治的手法に長けている。そして、それ以上に、他はもっと酷いのである。
まず、斉藤誠一郎、長谷川慶太郎木村剛は論外。どれくらい論外かと言うと「トンデモ本の世界に載ってる相対論批判レベル」。野口悠紀雄は経済学者の癖に学部生でも間違わないような発言をしパネルディスカッションで他の経済学者からボロクソに言われたくらいのひどさなので、たぶん大槻教授のような感じなのだろう。最近、目だって出始めた金子勝は前述のとおり「マルクス経済学」出身。言うまでもなく、これは欧米では存在しない学問。日本では一時期インテリがみんな共産主義にかぶれたこともあって、世界で珍しく長いこと真面目に「マルクス経済学」が存続しつづけたが、さすがに滅びつつある。経済学と呼ぶのさえ気がひけるよなあ。ミスター円こと榊原英輔やリチャード・クーは、自分の専門に関してはまともなことを言うが、それ以外はいい加減なことしか言わないと評判。
WBSに出ていて唯一、業績もあるまともな人が伊藤元重。この人、実は「インフレターゲティング」の日本での中心的推進者……なのだが、テレビでこれについて発言してるの見たことがない。苺BBSでの呼び名も「コアラ」あるいは「闘わない経済学者」。
しかし、日本を取りまく経済専門家の状況は燦々たるもんだなあ。昔から続く、文系重視の姿勢がここらへんにも影響しているような気がするが……。