蜷川幸雄監督、貴志祐介原作の映画「青の炎」を見に行く。なぜ私がこんなへろへろした作品を見に行ったのかというと、アトム特集のために買った今月のSIGHTに蜷川幸雄のインタビューが掲載されていたのを読んで見てみたくなったからだ。原作は黒い家の貴志祐介であるのでまったく期待できないし主演二人は素人同然のアイドルである。この状況設定で世界の蜷川がどのような映画を作るのか、その一点が私の興味に触れたのである。
はたして出来はどうだったかというと、なんとも見事な青春映画になっていたのである。蜷川幸雄本人が納得の出来だと思ったのも肯ける。ネタの平凡さ、リアリティのなさからいって、もし原作を読んでいたら「カス」の一言で終わってしまったに違いない(*。しかし、ダメな本筋のストーリーをあっさりと流しながら各人物の苦悩だけを淡々と描くことによって話のダメさが気にならないようになっている。舞台が本職だけあってアイドルへの演技指導も手馴れたものなのか、主演二人の演技もとてもアイドルとは思えない。
唯一の難点としてはヒロイン役の松浦亜弥の演出はあれで良かったのだろうかということだ。直観力といい落ち着きすぎた演技といい、とても人間の類には見えない。ガラス越しの松浦亜弥は貞子より遥かに怖いと感じた次第。


(ネタばれ注意)ストーリーに問題がありすぎる。まず、殺す方法が派手すぎ。なぜ殺す方法としてあんなに足がつきやすく、警察が疑いを持ちそうな方法を選ばなければならなかったのか。行動が怪しすぎるのも問題だが、行き来の最中町の何人の人間に目撃されているかわからないし、密かに殺すなら他にもっといい方法がありそうなもんだ。もちろん、現実に少年が殺人を犯すならそれくらいずさんな計画を行うかもしれないが、これは小説である。「少年は賢い」という設定になっている以上、論理的に欠陥のある方法をとるのは論外である。二つ目の事件にしても被害者は「この金で独立するんだ」と言っているのだから、あの時点で殺さなければいけない必然性はあまりにも薄い。また、逆に刑事の感がするどすぎるのも問題だ。まるで最初から事件の全貌を知っているかのようである。別にあの程度の事件ならば普通の刑事でも解決できる。最後の落ちもありきたりすぎる。主役の気持ちが自殺に向かうのは当然としても、ただ死んでしまうのではお話にならない。あれでは刑事の立場もなさすぎる。ようするに貴志祐介という作家は平凡きわまりないというだけの話なんだが……。