「新しい金融論」をムズいとか思いながらググってみたら、羊堂本舗さんところにスティグリッツが金融政策マンセー発言してるよという公演のスライドがあったので訳してみた。
うーむ、まともだ。てゆうか、やっぱりスティグリッツはリフレ派じゃないか。
付記:松原はスティグリッツ先生に詫びろやゴラァ



関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会
第4回 最近の国際金融の動向に関する専門部会 配布資料

デフレ、グローバリゼーション、新しい金融論

ジョセフ・E・スティグリッツ
財務省
2003年4月16日
東京



伝統的なケインズ経済学の問題点


-ミクロ的基礎付けがない

-70年代において、合理的個人が効用と利益を最大化するという仮説から導けないことが関心事だった


-価格の硬直性に起因する問題

-70年代はインフレが問題だった
-今日、多くの国々はデフレを心配している
-30年代でさえ、価格と賃金の硬直性という仮定に確信が持てない





貨幣の取引需要に基づく金融論はひどく疑わしい


-貨幣はほとんどの取引で必要とされない(多くは信用で良い)
-だいたいの貨幣には利子がつく

-貨幣の機会費用(CMA口座と米国務省証券の利子率の差額)は単に経済活動とは無関係に取引コストによって決まる


-大部分の取引は資産の中で取引され、所得の増加とは直接関係しない

-二者の関係は景気循環を通して安定的ではない


-流通速度は不安定なようである(大部分の国ではマネタリズムは終幕へと向かっている)



経験主義に基づいた難問・難題(I)


-実質利子率の相対的な安定性
-実質利子率が投資に影響を与えるという証拠はほとんどない(アメリカ)
-名目利子率が影響を与えるという証拠は少なからずある
-キャッシュフロー自己資本を組みいれた投資関数は有意性を持つ



経験主義に基づいた難問・難題(II)


-
多数の例外と疑問
-在庫 ―景気対抗的というよりもむしろ景気同調的
-輸出はしばしば、大規模な通貨切り下げ後、期待したほどは伸びないようだ(アジア通貨危機
-実質生産と実質消費の動きは、景気循環を越えて行われる


-なぜ、いくつかのショックは増幅するのだろうか(標準的な理論では、経済はショックを和らげると予測している)
-なぜ、いくつかのショックは長く続くのだろうか



経済理論を進化させる


-不完全・非対称情報は生産・労働・資本市場を不完全にする
-行動の中には、系統的な「非合理性」がある(カーネマン、トヴ
ァースキー)



二つの解決策


-新古典派の実物的景気循環理論
-ニューケインジアンの理論



なぜ新古典派と実物的景気循環の理論ではダメなのか(I)


-不完全雇用の問題を切り離して仮定している
-もっと大雑把にいえば、詰みあがった理論と不完全・非対称情報と非合理性についての証拠を無視している

-典型的な主体では非対称情報を持つ事ができない
-株式市場の振る舞いは、非合理的な強気と弱気、集団行動などを見せる(シラーなど)





なぜ新古典派と実物的景気循環の理論ではダメなのか(II)


-

-欧米での企業の経営者や会計、銀行のスキャンダルは重要なマクロ経済学の効果である不完全情報と関係がある
-大部分の結論には、合理的期待は必要ないものの、完全市場に依存している

-不完全市場を前提とした場合、合理的期待は政府の政策効果を小さくせず、むしろ増幅させるかもしれない(ニアリー、スティグリッツ




-信じがたい仮定が残っている

-外乱の主な要因は技術によるショックである
-経済はランダムに効率が良くなくなる!





新しい「ケインズ」経済学の二つの岐路


-硬直的な賃金と価格

-ところが、賃金と価格は硬直ではない
-そして、価格の硬直性を説明するメニューコスト理論には説得力がない
-効率的賃金理論(シャピロ・スティグリッツ)は、名目の硬直性ではなく実質硬直性の説明に役立つ


-フィッシャーのデット・デフレーション理論

-非対称情報と価格調節速度の非対称性を元にグリーンワルドとスティグリッツで開発





理論の基本要素(I)


-信用の割当と株式の割当(資本市場の不完全性は新たな資金の獲得に株式市場を利用することを制限する)は次のことを意味する:

-企業はリスク回避的に振舞う
-企業のバランスシートは、生産・投資・雇用などすべての決定において重要
-企業のキャッシュフローは重要


-家計と政府のバランスシートやキャッシュフローも同様に重要



理論の基本要素(II)


-需要と同様に供給側にも焦点を当てる

-生産にはリスクがあるため(そして、完全に投げ出すことはできないため)経済へのショックは、生産意欲に影響を与え得る。特に小国開放経済の中でその関係は、原理上、生産に対し水平に近い需要に直面するはずだ。―需要は問題とならないだろう。





理論の基本要素(III)


-

-信用の供給は、致命的な制約となり得る
-需要と供給は相互に絡み合っている

-一期間の需要ショックは、続く数期間の間、供給に対し影響を与える

-企業のバランスシートの悪化は、生産の低下をもたらす
-銀行のバランスシートの悪化は、信用供給の低下をもたらす






-
重要な非線形性のために再分配(例えば、幅広い価格の変化を通じてなど)が問題となる
-より貧しくなった人びとの損失は、より裕福になった人びとの分を埋め合わせた増分に比べたとしても、総需要をより大きく減少させるかもしれない





新しい金融論(I)


-信用(貸付資金)の供給を基盤としている
-銀行(とその他)の関わりを基盤としている

-情報の問題
-信用の価値の確認
-貸付契約の監視と規制


-銀行は、信用サービスに従事する「企業」である

-リスクの負担を伴う
-サービス提供の意欲と可能性はバランスシートに依存する





新しい金融論(II)


-理論は、(1)どのように経済にショックを与えるのか、(2)(マクロと規制の両方の)政策が信用を供給するという銀行(あるいは企業など)の能力と意欲にどのような影響を与えるのか、という点に焦点を当てる。

-規制政策は、マクロの経済効果を持っている


-理論は、倒産、(標準的な一般均衡の生産と結果の連鎖と同じくらい重要なものとして)企業間の信用連鎖に特別の注意を払っている



パラダイムは、デフレの考え方と代替的な政策による対処を提供


-デフレ、特に予想外のデフレは、総需要に負の影響を与える実質バランスシートを起こす
-これに伝統的な実質金利効果も加わる



グローバリゼーションは、いくらかのデフレバイアスを起こす


-強い統合には「伝染性デフレ」という意味がある。―ともかく、別の国の政策が強い影響をもつ
-より多くの競争
-国際的な貯蓄システムは、実質的な国際的利益を毎年、単に「埋蔵」させてしまうことを意味する
-インフレに焦点を当てると、相殺するための拡張的金融政策には制限がある。―安定協定はヨーロッパにデフレバイアスをもたらした
-貿易黒字の合計は貿易赤字の合計に等しい。だが、不釣合いな政策の反応がある:(インフレへの恐れからくる)通貨切り下げと貿易政策の制約や収益の削減を伴う赤字を削減するための赤字国での圧力は、短期的な道具にしかならない



処方箋(I)


-理論は、バランスシートに注目することを提言している
-デフレからインフレへの移行は、バランスシートの改善を助けるかもしれない。―デフレの負債の実質価値を増加させるため、取り消すことのできない被害を与える
-しかし、満期が不一致となるような機関では、バランスシートの毀損に気付くかもしれない。―インフレや利子率の上昇を必要とするかもしれない
-デフレからインフレへの移行は、より低い実質利子率へ導くかもしれない



処方箋(II)


-概して、通貨切り下げは、多くの債務者に信用を与え、日本のバランスシートを改善するだろう
-そして、デフレの削減を助けるだろう
-通貨切り下げによる通常の貿易利益が加わるだろう
-銀行のバランスシートを修正する従来の方法は、銀行から政府へと問題を移行させる

-ただし、従来的な方法と同じくらい正確に政府の立場を良く変える見通しを提供する従来的ではない方法もある





具体的政策:標準的なケインズ派手法の限定的な効果(I)


-もし、個々人がそれを一時的なものだと思うのなら、所得税減税は効果的ではないかもしれない
-そうではなく、たとえ恒久的なものだと思ったとしても、バランスシートを「元に戻す」ことに使われるだけだもしれない
-それが一時的であるという事実は、所得税が恒久的であるという主張に比べ信じがたいため、一時的な消費税減税にはより効果がありそうだ。そして、そのような税は異時点間の代替効果を持つ

-とはいえ、それでもまだ効果は限定的かもしれない





具体的政策:標準的なケインズ派手法の限定的な効果(II)


-借り入れによる資金調達は経済を刺激する

-しかし、国には借金が残る
-政府のバランスシートを悪化させる
-悪しき力が動き始める
-家計は将来の増税を心配するかもしれない





重要な質問


-どのようにして通貨を切り下げ、どのようにしてデフレを逆転させるのか?

-可能な解法:お金を刷りいくらかの赤字用の資金を調達をする


-不連続である証拠はない:適度な量なら激しいインフレは起こさない
-借り入れによる資金調達に対する利点:負債のように扱われない
-銀行への資本注入に役立てることができる。そして、より多くの貸付が可能となる
-戦略は、大恐慌期のスウェーデンで試みられ―うまくいった



重要な教訓


-たとえこの処方箋がうまくいくとしても、日本の長期的な問題は解決されないだろう
-特にサービス業のような経済の中の別の場所では製造業での革新を上手く利用できない
-しかしながら、もし日本が短期的な総需要の不足が続く状況について何もしなければ、金融問題の山積、新しい技術への投資の減少と言った長期的問題を深刻化させる本当の危険がある。



一般的な結論


-新しいマクロ理論、新しい金融論のパラダイムの必要性
-新しい理論は多くの現象により良い説明を与える
-もっと重要なことは、新しい理論は、様々な政策課題をどのように考えればいいのかという洞察を提供する



そういえば、以前訳したスティグリッツの「アウトソーシングと失業」だが、いろいろ調べた結果、国際貿易することによって全体としては利益を得るのだが、後進国と競合するような国内の非熟練労働者の賃金は下がるからそれが問題だと言っているということではないかと一人で納得。
どっかの本でクルーグマンも「非熟練労働者の給料は下がるのだが、国全体には利益があるのだという点を強調したい」と言っていたのを思い出した。私はどっちなんだろうな。最近SEプログラマというのは低賃金国と競合する産業なんではと思い始めたり……