経済学で考える日本のIT再生計画(その3)

賃金の決まり方について経済学はどう考えているのかを調べるため、樋口美雄労働経済学 (プログレッシブ経済学シリーズ)」を読んでみた*1

国内の平均的な賃金に関する考え方はあっていた模様。問題は、各業種間での賃金の違いである。通常、ミクロ経済学の最も簡単なモデルの上では、競争が進むことで社員の給料は、一定の水準に落ち着くことが説明される。なぜなら、もしより高い賃金をもらえる場所があるならば、その人はすぐに転職するからである。また、企業の側から見ても理由がないのであれば、他より高い賃金を労働者に与える必要はない。

しかし、実際にはそんなことはないわけで、(たとえ個人の能力に違いがなかったとしても)業種や職種によって賃金は大きく異なる。前述の労働経済学の教科書によれば、各企業は賃金の決定に対し概ね業績を考慮するとのことである。ちなみに次に高いのは世間相場、そして労働力の確保定着となる。実際、経常利益の伸びと賃金の伸び率には高い相関が見られる。

同書では、その理由として下記の二つを挙げている。

  • 賃金水準と経常利益を相関させることで、労働者のインセンティブを高めるため
  • より優秀な人材を採用するため

えっ……本当に、それだけ? って気もするが、たしかにそんなもんかもしれない。逆に経常利益が伸びている場合には、たとえ賃金水準が変化しなかったとしても、がんばっても報われないという予想が労働者のインセンティブを低下させることも考慮にいれる必要はあるだろう。

というわけで第一問目「なぜIT業界に集まる学生が減っているのか」に対する回答としては、「そもそもIT業界に集まる学生が過去多かったのは、ITバブルや新しいテクノロジーに対する期待感などにより発生した一過性の所得水準向上に対し学生が高い生涯賃金を予想しただけであり、ITバブル崩壊以後、利益水準に見合った賃金水準になったことにより、以前よりは志望度が低下したことが理由である。しかしながら、IT業界の持つ役割はすでにあらゆる産業において基盤となっており、まだ志望度はそれほど高くないものの徐々に上昇している様子も見受けられるため、心配する必要はないのではないか」というような結論を出してみたんだけど、どんなもんでせう。

*1:どの本が良いか判断が付かなかったので適当に開いてみたら、編集委員岩田規久男先生の名前があったので買ってみた。まぁ単なる名義貸しだったりするのかもしれないが……