弾さんの議論よりこっちの方が重要かもね
経済学者は以下の問いにきちんと答えてきたのだろうか?
1.なぜバブルが発生したのか?(バブル発生のメカニズム)
2.1990年代の日本の不況の原因
これはたぶん以下の問いに分割できると思う。
(a)1990年代のケインズ的政策が巨大な財政赤字だけを残して失敗した理由
(b)1990年代の末〜2000年代初めのゼロ金利政策でも景気が回復しなかった理由
(c)2000年代初めの構造改革で景気が回復しなかった理由
3.個人(企業も含む)の成長とGDPの成長がどのような関連があるのか
4.個人(企業も含む)の成長がGDPの拡大に常に寄与するのか
これはたぶん以下の問いに分割できると思う。
(a)個人(企業も含む)の成長がGDPの拡大に対して正の働きをするときのメカニズム
(a)個人(企業も含む)の成長がGDPの拡大に対して負の働きをするときのメカニズム
↑のことがらは私たちの生活に密接に関わってきたもしくは関わっている。
だからそのメカニズムをわかりやすく説明してくれることを、一般人は経済学者に望んでいるのではないだろうか?
正直、エコノミストがテレビで株や円相場の話をすることなんかどうでもいいと思っている人はたくさんいると思うよ?
一連のエントリーを見るに、弾さんは"私たちの生活に密接に関わっている部分"が経済学の理論でどこまで解明されているのか、あるいは解明されていないのかを教えてほしいと思っているんじゃないだろうか?
アメリカだとクルーグマンとかスティグリッツとかマンキューとか本当に偉い先生が経済学的にも正しくなおかつわかりやすい解説を新聞などを通してしてくれるんだけど、日本だと経済学分野が弱いせいか偉い先生でも怪しげな発言があったりして困ったものである。
まぁ、それはさておき上記の疑問はごもっともだと思う。というか、私が経済学を勉強し始めたころの疑問と非常に似ているので、勉強成果の発表も兼ねて解答してみる(当然のように私は素人なので、信用してはいけません。ただし、間違いの指摘は歓迎ですわよ)。
1.なぜバブルが発生したのか?(バブル発生のメカニズム)
まず、バブルの定義をはっきりさせておくと「ファンダメンタルから著しく上方に乖離している状況」だと言うことができる。では、メカニズムはというと、二種類の解答がありえる。
ひとつ目は、バブルなど存在しないというもの。これは市場は効率的なのでファンダメンタルから乖離などありえず、一見バブっているように見えても実際にはファンダメンタルを反映しているだということを意味している。馬鹿馬鹿しい解答におもえるけど、これも概ね正しいのだと思う。実際いわゆる「バブル景気」の真っ最中であれば、投資に見合う収益が望めたわけだから。ただ、これがすべてかと言われると納得できないのも確か。
ふたつ目は、実験経済学とか行動経済学とかの非主流的な立場からの意見。バブルは、将来期待できる配当の支払額ではなく資産の期待将来価格で取引されるときに起きる。これは、人間が合理的であれば長期的視野に立ち「本当の価格」でしか取引しないのだけれど、実際には合理性も限定的であり直近の取引で売り抜けることを視野に入れて行動することから起きる。
なお、バブルが長期の不景気を呼ぶということは実証研究より否定されている。すなわち、平成不況はバブルの崩壊が原因ではないし、日銀がバブルつぶしに走らなければあのような大不況は来なかった可能性が高い。
[参考]
- 作者: ロス・M・ミラー,川越敏司,望月衛
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2006/03/02
- メディア: 単行本
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
1990年代の日本の不況の原因
(a)1990年代のケインズ的政策が巨大な財政赤字だけを残して失敗した理由
高い実質金利が原因で財政政策の効果が限定的であったため。財政政策の効果の大きさは、乗数効果によって決まるが、実質金利が高く利益を得られる投資が少ない状況では、再投資が起こりにくく乗数効果は低くなってしまう。また、理論的には「将来増税があると予期されるため財政政策を行っても投資が促進されない」という逆ケインズ効果も指摘されている。
ただし、実証的には1990年代の財政政策がまったく効果がなかったわけではなく下支えの効果はあったとされている。
ちなみに、現在の経済学において景気対策の主流は金融政策とされており、大恐慌からの回復も一般的に言われるニューディール政策や戦争による投資によるものではなく、戦費調達のために行われた紙幣の増刷にあったという指摘もある。
[参考]
- 作者: 浜田宏一,堀内昭義,内閣府経済社会総合研究所,経済社会総合研究所=
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2004/05/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 42回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
- 作者: R.E.パーカー,Randall E. Parker,宮川重義
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2005/01/01
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
(b)1990年代の末〜2000年代初めのゼロ金利政策でも景気が回復しなかった理由
ゼロでも金利水準が高すぎるから。名目金利はゼロでもデフレ化では実質金利が発生する(実質金利=名目金利−インフレ率)。しかも継続的にデフレとなっている状況ではさらにデフレ予想が蔓延するため、予想される実質金利はさらに高くなってしまう。また、日銀の執拗なインフレつぶしがデフレ継続のコミットメントとして機能し状況を悪化させた可能性がある。
クルーグマンの流動性の罠議論は極端なケースではあるが、それ故に上記の問題がより明確な形で提示されている。
[参考]
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/12/01
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 131回
- この商品を含むブログ (23件) を見る
(c)2000年代初めの構造改革で景気が回復しなかった理由
「成長=生産性の問題、景気=需給ギャップの問題」という理解がまず必要。構造改革と言われているものが明確でないという問題はあるが、それが生産性の向上を目指すものという前提であれば、それは成長を目指す政策であって景気を回復させる政策ではない。不景気と言うのは需要と供給にギャップがあるため、本来なら達成できる生産性が十分に発揮できない状態のことである。
[参考]
- 作者: ポールクルーグマン,Paul Krugman,山形浩生
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2003/11
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 103回
- この商品を含むブログ (86件) を見る
1990年代の日本の不況の本当の原因
基本的には日銀がアホでまともな金融政策をしなかったのが原因。インタゲしる!
しかしながら日本が国民主権国家である以上、「日銀がアホ→日銀を止めなかった政治家がアホ→そんな政治家を選んだ日本国民がアホ」という考え方もできるわけですが。
3.個人(企業も含む)の成長とGDPの成長がどのような関連があるのか
個人の成長が財・サービスの生産するスピードや質を向上させるという意味であれば、それはすなわち生産性の向上、すなわち経済学的な成長を意味する。経済学的な成長とGDPの成長の関係は、経済学的な成長に対応する実概念に相当するものを計算したものと考えられる。GDPは一年間に国内で生産された財・サービスを金額換算して合計したものであり、別に違和感はないと思うが。
ただし、いろいろと指摘されている通り、GDPには脱落項目やら闇経済やら抜け落ちている項目があるのも確か。とはいえ、(1)そんなことは経済学者も知っている。(2)抜け落ちてる割合に毎年大きな変動があるとする明確な根拠がないならば、GDPの伸び率比較をすれば影響を大幅に緩和できる。(3)国際比較ならば、どの国も同じように抜け落ちるのだからそれほど気にする必要はない(本当は微妙な問題もいろいろあるけど……)
この手の統計は、我々の日々の活動を100%完璧に捕らえることは不可能なのだから*1、目的に対して利用価値があるかどうかが重要。景気観測とか国際比較という目的なら十分利用価値があるということ。
[参考]
- 作者: 中村隆英,美添泰人,新家健精,豊田敬
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1992/12/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 飯田泰之
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 新書
- 購入: 23人 クリック: 1,054回
- この商品を含むブログ (177件) を見る
個人(企業も含む)の成長がGDPの拡大に常に寄与するのか
(a)個人(企業も含む)の成長がGDPの拡大に対して正の働きをするときのメカニズム
まず、インフレ・デフレがなく、お金の額面に対する価値は変化しない*2とする。また、作ったものはすべて売れると仮定する*3。
個人とか企業が昨年よりもより良い財・サービスを作ればより高く売れるし、同じ原価でより多くの財・サービスを生み出せればより多く売れる。すると、トータルの付加価値額(売価から原価を引いたもの)が上がるのでGDPに反映される。以上、終了。
[参考]
国民経済計算の見方、使い方
(a)個人(企業も含む)の成長がGDPの拡大に対して負の働きをするときのメカニズム
前述の通りなんで負の影響を与える成長って論理矛盾という気もする。
おそらく意図するところは、公害のような負の外部性のことだと思う。公害を防ぐための費用はGDPを押し上げるけど、別に誰も幸せにはなってない。まぁ問題は、そんなのがGDPのうちどれくらいを占めてるかって話だけど「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態」とか読めば、そんなたいした話じゃないと思えてくるんでないかと。
[追記]
bewaadさんの指摘のように、脱落項目で成長があった結果GDPが下がるという場合があったなぁ。すっかり忘れてたよorz ちなみにレントシーキングのことは想定もしてなかった。言われてみればたしかにそうだ。
[参考]
- 作者: ビョルン・ロンボルグ,山形浩生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/06/27
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 174回
- この商品を含むブログ (100件) を見る
ほとんど未確認で書いてるので結構嘘はあるかも。まぁ、その場合は個別に指摘キボンヌ。