ジョージ・エインズリー著「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」を読み始める。
とりあえず第3章まで読んだ。こういう本の話題を持ち出すと暗い過去が思い出されて心が重たいね(w
銅鑼衣紋氏が大昔いちごで、経済学の場合歴史が進むにつれてだんだんと経済学の世界に近づいていくところが自然科学と違うところ、などと書いていたが第3章のテーマとなっている双曲線割引はなかなかそうはならない場合があるという例なのだろう。
経済学は効用理論に基づき構築されていると著者は語る。効用理論とひとことに言っても経済学者自身がコンテキストによってその適用範囲を自由に変えて語る状況があり何とも言えないが、第3章では評価に一貫性があること、常に効用を最大化するよう行動していること、アルコール中毒などの破滅的行動は効用を最大化する行動ではないということを前提としているようだ。
そう考えたとき、人々は理論的には最も合理的な指数割引に基づき評価すべきだが、実際には破滅的行動をもたらす双曲線割引で評価している。すなわち効用理論は間違っていると*1。
ここで銅鑼氏の指摘を思い出す。そもそも、効用理論って実証研究なのだろうか。おそらく効用理論には、実証的な行動モデルとしての側面と単なる最適解としての側面があるのだろう。しかも、後者の方が人類にとってはより好ましいことが明らかである以上、制度や教育の進歩によって前者は後者に近づいて行く。双曲線割引に関する研究が明らかにしたことは、現時点において人類は最適な行動を取っていないという単純な事実である。
と、考えたとき我々には二つの道が残されている。ひとつは、教育によって人々に最適な方法論を教え込むことである。経済学学習者を対象に心理学実験をすると、そうでない人に比べ遥かに合理的な結果が出てくると言う笑えない研究があった*2が、そうだとするならば人類全体に経済学的知見を知らしめることによってより効率的に人生を謳歌することも不可能ではない。
もうひとつは、人々が双曲線割引に従い評価することを前提に、その状況下でもより適切な判断をくだせるような制度設計を考えることである。私にはこちらの方が現実的に思えるのだが……
- 作者: ジョージ・エインズリー,山形浩生
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 2006/08/30
- メディア: 単行本
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