山形浩生編訳解説「クルーグマン教授の<ニッポン>経済入門」を読む。中にも書いてあるが、基本的に山形浩生のWebページにある翻訳を再録したものなので、金のない人は直接ページを見てくれって感じ。やたらと表紙が赤く「びっくり、君のインタゲもまっかっか」とか言ってしまいそうになる。もうちょっと売れ線の表紙を選ぼうぜとか思わんでもない。



山形自身本文で述べているが、この本が出るのは遅すぎた。残念なことだが、リフレ派はすでに惨敗してしまったのだ。「(クルーグマンの論文を翻訳してWebで公開していれば)自然に議論は広まり、そこを出発点としてもっときっちりとした議論が生じるであろう、とその物好き(=山形)は期待していた(括弧内は英-Ranによる注)」。私も同じくらい甘く見ていた。昨年、日銀総裁の後任人事において小泉の口から「デフレと徹底的に戦う姿勢をとり、デフレ退治に真剣に取り組み実現できる人」という言葉が出た時、やっと日本もこの長い不景気から脱却できると考えていた。その時点で、リフレ派は他のトンデモエコノミスト達の批判に対し完璧な論陣を張れていたし、日本以外の主要な経済学者は学派を超えインフレターゲット支持を明確に打ち出していたのである(とうとうインフレターゲット論と日銀の政策失敗は教科書にすら載り始めたそうだ)。
だが、現実は大きく違った。日銀新総裁として選ばれたのはバリバリの日銀マン福井俊彦であった。新総裁就任会見での「インフレターゲットは魔法の杖ではない」という発言が福井日銀が行う金融政策のすべて物語っていた。さらに困ったことに、この日を境にマスコミからは「インフレ目標」という言葉自体が消えてしまったのだ。(それどころか、株価が1万円を越えたおかげで、デフレ脱却すら政府の政策目標ではなくなってしまったようで、選挙の争点にすらならなかった。デフレは続いているし、経済状況もとてもではないが健全と言える状況ではないにも関わらず)

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インフレターゲット論は、「中国デフレ」とか「デフレと共存せよ」とか「構造改革せよ」とか「不良債権処理」とか様々な日本の不況の説明およびその対処法のうち唯一すべての反論に耐える論である(例えば、余は如何にして利富禮主義者となりし乎など読んでみればいい)。きちんと各説を確かめていけば、たとえインフレターゲット論自体が理解できなかったとしても、消去法でこの論しか残らない(逆に言えば、インフレターゲットに反対か否かはトンデモエコノミストであるかどうかのリトマス試験紙となる)。
すでに失われた10年は「失われた15年」になりつつある。2chの「インフレターゲット支持こそ経済学の本流」もすでに「その131」まで行ってしまった。いちごびびえすの経済板も議論が出尽くし話すことがなくなって閑散としている。まるで冗談のような状況だが、これが現実ってのが情けない。いつまでこんなことを続けるつもりなのだろうか……

*1:株価が1万円を越え多少なりとも景気の先行きが良くなりそうに見えているのも、もちろん構造改革のおかげではない(てゆーか、まだ何もやってないやん)。単純に福井総裁が速水前総裁よりもマシな奴で、昨年に比べれば大幅な量的緩和を行ったためである(量的緩和以降のベースマネーの前年比伸び率と平均株価の推移を比較すると面白いことがわかる)。だが、株価が上昇し始めてからは量的緩和に消極的になりつつある。