「脱=「年金依存」社会 (別冊環 (9))」を読む

年金がこれほどまでに話題になっているのに、まとまった形で識者の意見を読むことが出来ないことを考えると、非常に意義のある本となっている。

ただ、以前出た「税とは何か (別冊環 (7))」もそうだったのだが、読者としてはだからどうなのよというのが気になるのだが、そこらへんがまったく見えてこない。そういう本ではないのかもしれないが、例えば、経済学学会内での潮流だけでもあるとうれしい。

あと内容と照らし合わせるとタイトルに偽りありって気がするぞ。誰も年金の否定なんてしてないわけだし。年金「依存」をやめろといっているかもしれないが、そのテーマに沿って書かれているようにも思えない。

以下、個別に気になったところについて感想。

「座談会:年金は必要か?」

田中優子氏の語る江戸時代における老後の相互扶助の話は面白かった。が、全体的に「相互扶助いいよね〜」みたいな精神論っぽい議論になってて肩透かしの感がある。今、国民が求めてる話ってそんなところにはないんでないの。ただでさえ、個人主義化しつつある現代において相互扶助なんて本気で考えてるのか。そもそも、現代人は本当に相互扶助を求めているのだろうか。そんなべたべたした人間関係なぞ今さら誰も求めないんではなかろうか。

高橋洋一「年金財政は破綻するか」、若田部昌純「年金問題の経済学」

前者はデータから、後者は理論から現在の年金問題を簡潔にまとめていて、非常にわかりやすい。この記事のためだけにでも、この本は買う価値がある。今後、年金について何か書く際には参考にさせてもらおう。

川井徳子「無年金問題はどこへ行くのか」

実のところ現在の年金問題とは余り関係ない記事なのだが、一番、気になったのはこの記事だったりする。

以前、報道特集か何かで会社をリストラされたのだけど再就職できず、生活保護を申し込んだが50歳なら働けるからということで相手にされず、お金も底を尽き食料も手に入らず日々体も衰え日雇い労働すらできない状況に追い込まれた男性のドキュメントを放送していたのを見て、憤慨したのを覚えている。経済大国などと言いながら、これが日本の実態なのだ。

無知故に日本経済をどん底に落とし大量の失業者を生み出した速見、その状況下で緊縮財政を引き教育予算と生活保護費をカットした小泉。政策の結果間接的に引き起こされた被害まで政治家に責任を負わせるべきではないのかもしれないが、本当に許してしまってよいものだろうか。

田中秀臣「老人は淘汰されるのか」

穂積陳重、福田徳三の話が面白い。70年も前にここまで優れた政策が提案されていたとは驚き。で、当然のように闇に葬りさられるあたりに絶望。てゆうか、日本というのは昔からしょせんその程度の国だったわけだ。アメ公とか三国人を馬鹿にしてる場合じゃありません。日本人として心から恥じる。

稲葉振一郎マルクス経済学は年金を語れるか」

もはや語る必要もないのではないかと……

岩田規久男サッチャー改革による英国病の克服」

面白い。強い労働組合という労働者に優しい制度が国の成長を弱め英国病をもたらし結果的に国民に不利益をもたらしたという話は、市場の法則をゆがめるととばっちりが来るぞという教訓とともに、経済学の知識なしに経済問題に対処するなかれという教訓にもなるのではなかろうか(まぁ、当時は強い労組が英国病の原因かどうか経済学者内でも意見がわかれてたようなので何なのだが)。

原田泰「人口減少と年金」

いつもと同じ話。この内容を読むの三度目。年金カットは納得だが、高齢者はわかってくれないと思う。だって人間だもの(by あいだみつを)。歳をとっても欲深さはかわらんぞ。

どうでもいいが、大学出たはいいけれど15年間不況で、就職は厳しく、年金はカットされ、賃金も上がらない時代に生まれてしまった我々はどうすればいいのだろうか。我々は高齢者に搾取されていることを考えると、世代間格差を是正するためにとりあえず革命を起こしてみるという方向で……

井堀利宏「年金に依存しない世界」

おおむね納得できるのだが、公的年金の存在理由という部分だけ納得できない。

  • 私的年金はインフレ率の問題だけではない。年金は支払いと受給の期間が極めて離れている。保険会社の倒産や選択により最終的に得られる利益に大きな違いがあるが、その選択は受給よりも40年程度前の時点で決めなくてはならず切り替えも困難である。年金の目的は老後の安定であってギャンブルではないのだから、このようなリスクを加入者に負わせるのは間違っている。
  • 私的年金にする以上は競争が発生する必要があるが、次の記事、小塩隆志「年金民営化とニ〇〇四年改正」にあるように民間の保険会社からみると私的年金を扱うメリットがほとんどなく結果的に横並びで加入者が選択に困るだけという結果になる可能性が高い。

この本を通して読んだ結果、個人的には年金はむしろ「国家向きの仕事」なのではないかと感じたのだが、どうであろうか。