経済学で考える日本のIT再生計画（その１）
すでにid:Baatarismさんに先を越されてしまって、おそらく似たような結論にはなりそうだが、一部異論が出てきそうな箇所もあるので、こちらはこちらで進行させていただくことにする（もちろん、各blogerの方々も積極的に参戦しただきたい）。
まず、IT業界とは何か。実のところこれが難しい。コンピュータに関わる仕事とは言っても、現在コンピュータを扱わない仕事など無いに等しい。世間的にIT業界と言うとまず思い浮かぶのがYahoo!や楽天、あるいはその親会社であるソフトバンクなどであるが、Yahoo!はともかく楽天はショッピングモール運営と金融が主業務であるし、ソフトバンクに至ってはIT商材を扱う流通・ADSLなどの通信業。また、DellやCiscoのようのハードウェア専門の会社もある。IT業界とは言いながらも、その内実は多種多様であり曖昧模糊としている。
おそらく、IT Proで取り上げられているIT業界と呼ばれているものは、いわゆるSIer（システム・インテグレータ）、ITコンサル、ソフトウェアパッケージ会社などのソフトウェア開発周辺の産業が念頭にあると思われる（具体的には、JISA 財団法人情報サービス産業協会のサイトなどを見てもらうと良い）ので以下では、その前提で話を進める。
さて、まず一番目「なぜIT業界に集まる学生が減っているのか」であるが、本当にIT業界の人気は落ちているのだろうか。やはり、実際のデータを見てみるのが一番である。就職人気ランキングは毎年リクルートより発表されており、ここ４年分くらいのデータは手に入れることが可能である。
一見して思うのは、そもそもIT業界ってそんなに人気あるのか？ という疑問である。業界で考えた場合、
旅行＞マスコミ・出版＞自動車＞金融＞電子・電気＞通信＞情報（←ここ）
というところであろうか。しかも、2005年度のデータを見ればわかるように、昨年よりも概ね順位は上がっている*2。ただし、2002年度にある前年度の順位を見る限り、ITバブルが起こった2001年のみそこそこ高い順位が付いていたようだ。
就職志望ランキングなどというものは水物ではあるとはいえ、こうやってデータを見ていくと、そもそも記者の「なぜIT業界に集まる学生が減っているのか」という設問自体が間違っている気がする。IT業界の人気に限りが見えてきたのではなく、そもそも人気があるような産業では無いにも関わらず、ITバブルによって一時的に人気が上がっていたと見る方が正しいのではないだろうか。
……って、ここまでだと全然経済学じゃないですな。
では、こんどは経済学で考えてみる。
経済学的に人気のある会社とは何なのかを考えると、その会社に入ることで得られる予想生涯所得だけで決まる（後はせいぜい余暇を考慮するくらいか？）。となると、他の業種の同規模の企業に比べて単純に生涯所得が低いんでしょうなぁ。基本的に残業時間も多いから余暇を考慮する必然性もないし。ITバブル時は、株価の上昇によるストックオプションの存在が生涯所得を引き上げたので人気も高まったと考えれば、つじつまは合うし実際その通りなのだろう。
では、なぜ他の業種の同規模の企業に比べて生涯所得が小さいのか。経済学的には基本的に所得は生産性で決まる。
まず、考えられるのがそもそもIT業界を占めているのが生産性の低い人々であるため生涯所得が小さいという可能性である。にわとりが先かたまごが先かという問題もあるが、IT業界が他業界に比べ人気がないのであれば、より生産性の高い人材は他業界に流れるはずである。そうであれば、結果としてIT業界には生産性の低い無能な奴らしか入ってこないことになる。
だが、この結論は疑わしい。これが本当ならばITバブルの際に高い生産性を持つ人材が大量に流入し、それ以降は高い賃金を払っていたはずであるからである。
次に考えられるのが、IT業界は個人の持つ生産性に対するアウトプットの生産性がそれほど高くないという可能性である。私が思うにこの可能性が高いのではないかと思う。だが、その理由を探るのは困難である。SIerであれば基本的にサービス業であり生産性も低いことは明らかなのだが、ソフトウェア・パッケージ業は収穫逓増である。しかも、人気ランキング上位はパッケージ屋よりもSIerの方が多いのである。歴史が浅い分、業界のシステム的なところがあまり最適化されていないのだろうか。
とりあえず、今日は酒飲んで酔っ払ってるのでこんなところで。
