浜井浩一著「刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ」を読む

某所で紹介されていたので北海道旅行での暇つぶしに持っていって読んだのだけれど、非常に面白い本で刑罰のあり方について興味を持っておられる方は必読である。

筆者は犯罪学の研究を主業務としている元法務官僚(現職は龍谷大学教授)で、その中で法務心理技官として刑務所に勤務した経験を元に、刑務所の内情をありのまま記載した書籍となっている。一般人である我々にとってはセンセーショナルな内容を含みながらも、筆者の学者然とした冷静な記述と分析のおかげで安心して読める。

それにしても、この本で書かれている今の刑務所の状況を見ると、いかに日本のマスコミが有害なことを言い続けているかがわかる。

マスコミが流す現在の犯罪状況およびその対処方法は「凶悪犯が増加している。厳罰化こそがこれに対する最大の対処である」というものであるが、実際に収容されている犯罪者の大半が「障害や老齢、外国人であることなど様々なハンディキャップを抱え一般社会では生きていけない人々」であり、厳罰化により「収容期間が長期化し、刑務所はパンク状態」となっているのが実情のようである。

日本では仮出所があるから早く出所できると言われているが、前述のようにハンディキャップを抱える人々であるが故に引き取り手がおらず、模範囚であっても仮出所は難しい。また、出所したとしてもまともな生活に行き着くことができず空腹のため万引きや無銭飲食でまた入所するはめになることも多いようだ。また、病院や介護施設などでは厄介な患者を追い出すことが可能だが、刑務所はその役割故にどのような収容者も決して追い出すことはできない。

私には、筆者の言う『刑務所は「治安の最後の砦」ではなく「福祉の最後の砦」となっている』との言葉が印象的であった。

本書を読む限り、日本の刑務所制度は、受刑者自らが運営することで世界的に類を見ないほど少人数での運用を可能としており、非常に優れた仕組みであるように見える。しかしながら、その制度も収容者数が増加する一方、まともに働ける収容者は少なくなっており崩壊の兆しも見える。

そういえば、本書では、外国人犯罪者についてのマスコミから流されるイメージと実際の様子とのギャップも描かれている。

  • 治安悪化の主な要因として外国人犯罪者の増加が挙げられるが、実際には一般刑法犯全体の4%にも満たない
  • 外国人犯罪者は「日本の警察なんてちょろい」と思っている、などとされるが、実際には言葉が通じない外国の刑務所に収監されることに不安を抱えている
  • 日本の刑務所で働いて得られる報酬は中国に帰れば大金である、などという話があるが実際には日本に来る際に蛇頭のような組織に数百万を支払っており、日本の刑務所の方が割が良いなどということはない
  • 外国人犯罪者の中にはバブル期に来日し、その後の不景気で職を失った後犯罪に手を染めたものも多い

こうやって事実と照らし合わせるとずいぶん外国人犯罪者に対する印象も変わるのではないだろうか。

しかし、こうして見ていくと、法的あるいは人権などの議論に目が行きがちな刑務所という場所であるが、不況という経済問題の影響をモロに被っていることに気付く。……そろそろ日銀をどうにかしなきゃ、と思う人が増えてくれるとよいのだが。

刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ

刑務所の風景―社会を見つめる刑務所モノグラフ