幻想と言われても……

朝日新聞の社説が取り上げていましたが、ついにタクシーも値上げで、どんどん値上げラッシュが続き、日銀の生活意識アンケートでも、6割の人が1年前に比べて物価が上がったと答えているにもかかわらず、消費者物価指数は8月まで7カ月連続で前年同月比マイナスとう異常さです。

どう考えてもおかしいというか、実態を反映していません。なぜそうかは朝日の社説で、消費者物価指数の落とし穴として書かれていますので引用しておきます。

(中略)

この新たな構造的な問題から生まれるコストインフレについて、マスコミや政治がもっと真剣に議論すべきと思うのですが、どうも生活者物価指数という幻の数字で現実を考えてしまっているせいか感度が鈍いですね。

大西 宏のマーケティング・エッセンス : 消費者物価指数という幻に惑わされてはいけない

消費者物価指数が必ずしも真実の数字を示していないことは事実(物価の計測にバイアスは付き物)だが、だからと言って物価を正しく把握するためにヘドニック・アプローチが組み込まれているのに、それを持って幻想扱いとはいかがなものか。

物価が上がって生活が苦しくなった……と言うが、古典派的な貨幣ベール説(貨幣供給は物価に比例的な変化をもたらすだけで実体経済に影響しない)が物価に関する考え方の基礎であることを抑えておけば、そのようなことが起こらないのは明らかだ(今、デフレが問題視されているのは、デフレが継続するという将来予測を通じて消費や投資が抑えられてしまうという点にある)。

以前、某所で書いたようにお金というのは財・サービスという実に対する引換券にすぎないのだが、多くの人がお金というものを独立した価値を持つ特別な何かだと勘違いしているようだ。よく、たった数円で作れる紙幣になぜ1万円の価値があるのか疑問に思う人がいるが、それは考え方が間違っているのであり、正しくは「数円で作れる紙幣にある程度の財・サービスと交換できる権利を国が保証している」ということなのである。

さて、物価であるが消費者物価指数の利用方法を見れば次のように書いてある。

物価は、経済活動が活発となり需給がひっ迫してくると上昇率が高まり、経済活動が停滞し需給が緩むと上昇率が低下する傾向があります。このため、消費者物価指数は「経済の体温計」とも呼ばれており、経済政策を的確に推進する上で極めて重要な指標となっています。

http://www.stat.go.jp/data/cpi/4-1.htm#Q02

物価、すなわちインフレ率は経済活動の状況を掴むために非常に重要な指標であるから計測されているのであり、消費者の気持ちを汲むために行っているわけではない。で、あるから当然物価は全品目の物価なのであり、個々の品目の物価それ自体にはそれほど重要な意味はない。個々の消費者が直面するタクシー値上げと消費者物価指数を比較すること自体がナンセンスなのである。

ましてや、コストインフレもインフレには違いないのだから、本当にそのようなことが起こっているのであれば当然消費者物価指数には反映されるはずである。著者の主張は一見もっともらしく見えるが、主張を簡潔に書くと「物価を計測するための指標である消費者物価指数では観測できないが、実際には物価は上がっている」となる。データ的な証拠はないが起こっているだなんて、まるでトンデモ本の主張ですわな。