クルーグマン教授、最低賃金を肯定する

クルーグマン著「格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略」より引用(うーむ、はてなの引用記法だとisbn使えないのか……)

最低賃金の引き上げに対し、矛盾しているが耳にするありふれた反対意見が二つある。一方は、最低賃金の上昇は失業を増大させ、雇用を減少させてしまうという議論である。他方は、最低賃金を上げることは、賃金の上昇にはたいして効果がない、ないしはまったくないという議論である。だが、これまでのデータは、最低賃金の上昇は賃金に対し少なからず積極的な効果があることを示している。

雇用減少についていえば、アメリカを代表する労働経済学者であるカリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・カードとプリンストン大学のアラン・クルーガーの古典的な調査によると、これまでのアメリカにおける最低賃金の上昇が、失業に繋がったという事例はないという。

(中略)

すべての経験的なデータが示すところによると、最低賃金の引き上げは、「それがたぶんおこるだろう範囲であるなら」、多くの職の損失には繋がらないという。事実、最低賃金の上昇が、たとえば、一時間当たり一五ドルであるなら、多くの産業での雇用コストが上昇するため職の喪失に結び付くだろうが、そもそもそのような額は交渉のテーブルの上にあるわけではないし、誰も口にしてさえいない。

反面、最低賃金の引き上げは、低所得者の収入に大きな効果をもたらす。経済政策インスティチュートによると、アメリカで最も賃金が安い一〇パーセントにあたる約一三〇〇万人の労働者は、最低賃金の引き上げの恩恵を受けるという。その中の五六〇万人は現在、新しく引き上げられる最低賃金よりも低い額しか支払われていないため、直接的な恩恵を受けるだろう。その他は、新しい最低賃金よりも多くを稼いでいる労働者であるが、引き上げられる最低賃金の波及効果を享受するはずだ。

肯定していても「それがたぶんおこるだろう範囲であるなら」と強調してある辺りが重要だよね。民主党は全国一律1000円にするんでしたっけ? これは起こるだろう範囲に収まっているのだろうか(w

最低賃金制度の難しいところはどの程度の金額に設定すべきかがまだ明らかではないところだろうか。最低賃金制度がない場合、雇用流動性が極めて低い地域(例えば田舎の方とか)で不当に安い賃金設定がされる可能性がある。そう考えると、単純労働による賃金の平均よりやや低いくらいの金額設定が適当だという話になる。

しかしながら、クルーグマンが言うように「少なからず積極的な効果がある」のであれば、もっと高い金額設定をすべきだということになるのだが、本当にそんな効果あるもんなのだろうか。景気が良いならともかく、不景気だと企業業績が悪化し倒産に結びつく可能性もある。

個人的にはまだまだ怪しげな最低賃金よりも他のより良い方法論を開拓した方がいいんじゃないかと思ってしまうのだが……

格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略

格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略