お客様の納得感

「お客様が納得して」とは何を意味するのだろうか、お客様が納得しないのであればどんな非常識な要件でも、非常識な期間・予算だろうと引き受けなければならないのだろうか。

しかし、実際には期間と予算が決まっている以上、平均して実現できることには限りがある。もちろん平均でなければいくつでも成功例は挙げられるだろうが、そんな偶然や局所的な何かを頼りに企業利益を追求しつづけるなどどだい無理な話だ。また、特別なサービスを特定顧客に提供することは、適正な金額を払ったお客様に対し失礼である。誰しも自分を特別な客として扱ってもらいたいと思うかもしれないが、特別な客にしてほしいなら特別な金額を積む必要がある。

請負建築の話だが、「コワ?い土地の話 (宝島SUGOI文庫)」という本を読むと、素人であるが故に無謀な値引きを要求し厄介者扱いされる客や、完ぺき主義故に仲介業者の紹介する物件をすべて断り、自分で探し始めたはいいが瑕疵物件を買ってしまう客の話が出てくる。騙す仲介業者は別として、基本的には仲介業者が薦める物件は平均的な物件であり決して損をするような物件ではないということだ。そのことを理解せずに、競売物件に手を出したり、特殊な物件を物色したりするのはギャンブルに手を出すようなものである。経済学者曰く、「お金が落ちていることはありえない。なぜなら、誰かがすでに拾っているはずだからだ」。

これはシステム開発でも同じである。妥当な予算、金額を払えば、妥当なものを作ってもらえる。これはどこのシステム会社に出そうとそう変わらない(コの業界は雇用流動性が激しいので、どの会社に発注するかよりもどの人がPMをやるかの方が重要である)。そういう意味で言えば、結局、システム開発プロジェクトがうまくいくかは、お客の能力に大きく依存するのである。

では、システム会社側は何をすればよいのか。結局、お客の能力に依存するのであれば、何もやることはないのか。そんなことはない。お客をいかにして管理するかそれが重要なのである。

まだ、未整理な状態だが、施策としては情報の公開性(=情報の非対称性を極力排除する)を強めることだろうか。システム開発会社がどこで利益を得ているのか、プロジェクトはなぜ失敗するのか、業界標準の考え方(人月など)を極力公開しお客に安心感を与えることが重要である。また、お客の無茶な要望にもなぜ無茶かを納得させる技術を生み出すことが必要である(前述の本の中では航空写真を使いながら、お客が要望するような土地が存在しないことを納得させる話がでてくる)。お客の無茶に積極的に対処するのではなく、お客の無茶を防止するのである。

また、プロジェクト期間、予算を細かく分割することも重要だろう。行動経済学の本などを見る限り、人間は遠い先のことを正しく判断できないようである。このことは、プロジェクトを破綻する要因ともなりえる。それだけはなく、プロジェクトを取り巻く環境は日々刻々と変化する(ビジネス環境や協力会社からの派遣費用など)。全体としては大規模なプロジェクトであっても、分割し短期間の複数のプロジェクトに分ける方が適当であろう。

取引とは両者にとってメリットがあるから実施されるのであるから、お客とシステム開発者が共に勝者となれる仕組みづくりが実現されることを願う。