元厚生次官宅連続襲撃事件に思う
今回の件はテロなのだろうか。たしかに一見すると個人の犯罪に過ぎないようにも見える。しかしながら、もし私が現状に不満を持ちテロを起こそうと思ったならば、世界的に見られるような組織的なテロではなく、同じく個人の犯罪という形になっていたのではないか。今から思えば、秋葉原無差別殺傷事件も同じように「テロのなりそこない」だったのではなかろうか。
これだけ長いこと不景気が続き、それに対する対応策がまったく見えない中、政治家、官僚による不祥事が連日続いている。これが他国であれば連日大規模なデモが起こってもおかしくない状況である。それにも関わらず、日本ではまさに「ゆでがえる」という言葉が示すように目だった政治行動はほとんど見られない。
「テロの経済学」によれば、テロの発生には政治的自由度が重要な役割を果たしているようだ。本来であれば日本は成熟した民主国家であるわけだから、適切な民主的手段によって不満を表明すべきである。
しかしながら、現実にはどうだろうか。
最も民主的方法であるはずの選挙による投票は、与野党共に国民にとって一番重要な問題である景気の問題は完全に置き去られ、選択肢は事実上用意されていない。また、本来それに対する抑止力となりえる政治団体は、日本ではまともな集団と見られない風潮がある。結果的にテロ組織を含むあらゆる政治団体は現状に対して不満を持つ人々をうまく吸収できない構造になっている。ネット世論もまだ現実世論を変えるにはいたっていない。このような状況では、不満を世間に表明しようと思うならば個人の犯罪、しかもできるだけ派手な犯罪こそが有効な手段となる。
表面に出てきたのは個人の犯罪のように見えても、それが「テロのなりそこない」だったとすれば問題は深刻である。大規模なデモと同じだけの不満がそこかしこに隠れているのかもしれないのだから。
[追記]
役人ってのは、殺されるほど悪いことをしているんですかね……
2008-11-19
id:kanryo氏の日記を愛読していたので、この発言はショックだ。15年間不景気を継続させ、景気回復の目が見える度に増税を迫りつつ、その一方で集めた年金管理はいい加減、昨今はグレーゾーン金利規制や建築法改正など問題のある法案も少なくない。殺人は許されることではないし、元事務次官個人がその責を負うものではないとはいえ、役人や政治家といった為政者がそのようなサラリーマン気分では困ってしまう。
為政者が誤った経済政策を行えば、多くの失業者が発生し自殺者も増加する。新卒採用に漏れた学生は、大幅な生涯賃金の低下を余儀なくされる。厚労省の不手際で年金が無効にされれば老後の人生設計が大幅に狂う人も出てくる。グレーゾーン金利規制や建築法改正で廃業に追い込まれる人も出てくる。経済政策、制度設計の失敗は多くの人々の人生を狂わせる。単に結果の大きさだけで考えるならば「殺されるほど悪い」結果をもたらし得る力を持つのが為政者なのである。
たしかに官僚もしょせんサラリーマンだと言われれば、そうかもしれない。だとすれば、現在の官僚制は改革せざるを得ない。官僚が権力を持つならば、その責任・代償は負わねばならない。それができないならば、公僕として政治家・国民の使用人としての権限しか与えられるべきではないのだ。