只より高いものはない

(ロバート・バローは)減税が経済を刺激し、むしろ税収が増加すると極端なサプライサイド経済学者が言ったように、今はオバマチームの需要サイド経済学者が財政支出が乗数1.5などというフリーランチを主張している、と批判する。

(中略)

バローは基本的に財政支出の乗数は0だと考えているらしいが、まずここでは乗数が1だとした場合、それがどういう意味かを説明する。つまり、乗数が1ということは財政支出の増加が民間の消費や投資を一切クラウドアウトすることがないということだから、それはフリーランチだと、ということになる。どうしてこんなことが可能なのかというと、ケインジアンは政府が市場よりも優れていて失業者や遊休設備にうまく仕事を与えることが出来ると考えているからだ、と言う。

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バロー教授の経済学でここまでできる!」を読んだ際にも思った(書評)が、バローは本当に筋金入りのシカゴ学派なのだなぁ。自由主義を極端に推し進めたその主張は、私のように経済学の知識をある程度持っている人間でも受け入れがたいものがある。

今回のバローの主張を読む限り、マクロ政策はフリーランチなのでそんな不可能ごとやるべきではない、と言っているようにみえる。たしかに、もし現在の恐慌が潜在成長率の低下によって起こっているのであれば、バローの主張はごもっともと言えよう。

しかし、ここ一年の間に、多くの製造業で工場が本来生産できる水準をはるかに下回る水準での稼動を余儀なくされている現実を見れば、この状況を潜在成長率の低下で説明することがいかにナンセンスかわかるだろう(そういえば、松原隆一郎氏は日本の長期低迷を説明するために「買いたいものがない」というロジックを用いていたが、この世界恐慌を見ても同じ感想を抱くのだろうか)。

インフレによる景気回復も財政支出の増加による景気回復も、共に潜在成長率を下回る水準で経済が推移しているからこそ有効なのだ。すなわち、景気対策とは不況という極めて高いコストを払うことによって初めて効果を発揮できる。

バローは、このフリーランチを食べるのに、ずいぶん高い入会金が必要だということに気づいていないようだ。