100%相続税と無利子非課税国債

最近、政府紙幣とともに無利子非課税国債というものが話題になっているらしい。無利子非課税国債とは、利子が付かない代わりに相続税を免除するというもののようだ。

相続税というのは、その本来の意図とは裏腹にかなり変わった効果を持つ税として知られている。すなわち、この税は支払いを行う時には資産を稼いだ本人は死んでいるが故に、死んだ者が子孫への相続をどのように考えているかによって効果が異なる。

通常、相続の意図は次の三つに分類される。

  • 子孫への利他的愛情に基づき遺産を残す
  • 自分の老後を子孫に支えてもらうための対価として遺産を残す
  • 自分の老後のために資産を残していたが、使う前に死んでしまった

チャールズ・ユウジ・ホリオカの有名な研究によれば日本人の大半は2番目と3番目の理由に基づき遺産が残されており、実は合理的動機に基づいているとされている(後発の研究では多少の反論もあるようだが)。そういえば、多くの日本人はアメリカ人=合理的と見ているようだが、このホリオカ論文だけでなく他の論文でも、むしろ日本人の方が合理的行動をしているという結論が出ているのが面白い。

閑話休題。このような状況下で無利子非課税国債の意味を考えると、ある意味この国債は、各人の意思を相続税に反映できるという意味で有意義なのではないかと思えてくる。非課税なので相続税が免除される=減税と思いがちだが、本来であれば国債には利子が付くのだから、実際には相続税の先払いをしていることになる。

しかしながら、人々の行動は変化する。この国債が発売されれば1番目、2番目の動機による人はこの国債を好むだろうし、3番目の動機による人はそのような国債など買わないだろう。

ベッカーは相続税などあまりにも額が少なく脱税も容易で実効性がないので廃止すべきだと主張していたが、このような国債が登場すればあえて脱税をしようとする人は減るだろうし、本人の意思のとおりに遺産額をコントロールできるという意味で有意義であり、むしろ100%相続税と無利子非課税国債の組み合わせは、効用と平等の両方を高める非常に有意義な施策であるように思えるのだが、いかがだろうか。

[追記] night_in_tunisiaさんの見解を読んだが、無利子非課税国債の問題は次の点に集約されそうだ。

  • 相続税対策のため資産処分が加速され消費を低下させてしまう
  • 事業継承の問題がある

まぁ、この対策が景気対策としてはまったく意味をなさないであろうことは同意します。というか、今の状況で考え得る景気対策としてはもはやシニョリッジ政策しか考えられないので。他の対策はどうでもよいと言って過言ではないのですが。

事業継承の問題は、生前譲渡の手続きを整備したり、小規模事業者を集めてサブプライムローンみたいに証券化しつつ継承者が事業を続けていける仕組みを考えるべきで、安易に相続で事業継承させるという今の仕組みは正当化しがたいように思う。

[さらに追記] kmori58さんからは、譲渡しまくることで皆が相続税をゼロにすることができるぞ、という問題が、岩本康志教授は、

財政支出の裏側にある負担を認識した上で,政府紙幣無利子国債の政策としての効果と,財政支出そのものの価値を考えることが必要だ。政策効果で見ると,政府紙幣は,国債政府紙幣に置き換える働きをする。無利子国債は,死蔵された現金(紙幣)を国債に置き換えることが期待されているようである。両者の働きは正反対なのだが,それを同時に検討することで何をしたいのだろうか。

ただ飯を食べたい議員連盟 ( その他経済 ) - 岩本康志のブログ - Yahoo!ブログ

という問題提起をされている。たしかにこっちの方が問題かもね。無利子国債はマネーサプライを低下させる可能性があるので、もし私の見解が正しくミクロ的には意味のある政策だったとしても、今やることは景気の足を引っ張りかねない。