経済学と経済物理学

某所でなぜか経済物理学の話が出ており、つらつら考えていたのだが、経済を相転移で説明するって従前の経済学で言っていることと何も違いがないことに気付いた。

相転移現象というのは、温度によってどの項目の影響が大きくなるかが変わるため、違う状態が最適になる、というだけのことだ。見た目のインパクトが大きいので特殊な現象のように思えるが、式だけ見ればただそれだけのこと。

で、経済現象だって需要と供給でどちらが大きいかによって違う状態(=行動指針)が最適になったり、インフレとデフレでは違う状態(=行動指針)が最適になったりする。それを相転移現象だ、と呼んでもいいのだが、その考え方自体は従来からあった何の変哲もないものなので、あえて物理学の知見を駆使する必要もない。

特に相転移の現象面のイメージを安直に各種経済現象に適用する姿勢はいかがなものかと思う。ハイパーインフレなど、経済現象としてはすでに解明済みの問題にあえてイメージ先行の大雑把な議論を当てはめても仕方あるまい。

一方で、ゆらぎを使った超短期での市場分析は有用かもしれない。物理学においてもそうであるように、超短期のみで発生する現象はたしかにあるだろう。そういう場所では物理学が培ってきた技術は十分生かせる。そういう意味で、当初から金融工学を中心に適用してきたのは正しかったように思うし、株価の短期的な大暴落のシミュレーションなどへの適用はそれほど違和感はない。

しかしながら、熱力学もマクロで見ると個々の細かな現象が中和され観察されなくなってしまうように、マクロの経済現象に適用するのはどだい無理な話に思われる。エアコンの温度調節にゆらぎの影響なぞさほど重要ではないように、景気の議論に経済物理学を持ち込むのは基本的にナンセンスな話であろう。

[追記] そういえば、経済物理学にミクロ的基礎があるか否かも話題になっていたんだっけ。私の理解ではミクロ的基礎=ルーカス批判に耐えられるか否か、だけど、経済物理学では期待や予想を扱っているようには思えないので駄目だと思う。とはいえ、おそらく超短期では、期待の影響なんて関係ない(高安氏の本を読む限りノイズに条件反射してるような感じだし)から結果的にルーカス批判の影響を免れているとも言えるんじゃなかろうか。