最低賃金について考える

himaginary そういえば"Can anything be done to spread the benefits of a growing economy more widely? Of course. A good start would be to increase the minimum wage"と「放言」していた学者がいたが、彼も実は頭が悪いのかな?http://select.nytimes.com/2006/07/14/opinion/14krugman.html

はてなブックマーク - 学者が実証を踏まえることなく述べる放言について - A.R.N [日記]

嫌味なコメントをありがとう。アメリカは格差が激しいから、景気が良く最低賃金が低すぎる状況であればある程度上げる意味はあるのでは? まぁ、最近のクルーグマンの発言であることを考えると、ある程度リベラル・バイアスを差っ引いた方がよいのかもしれないが(最低賃金引き上げは民主党的政策でもあるし)。

もし、クルーグマンが主要な景気回復策として最低賃金を唱えていたら容赦なくトンデモ扱いして良いと思うが、上の書き方だと微妙(日本とアメリカでは最低賃金の実証結果には違いもあるし)。クルーグマンの書いた教科書にも、上げすぎれば失業率を上げるという点に関しては経済学者間の広いコンセンサスがあると書かれていたように思う。

閑話休題最低賃金自体は、経緯も含め話題としてはなかなか面白い(himaginary氏の書いた「最低賃金引き上げは失業率を上昇させるか?」が詳しい)。経済政策の多くはプラスとマイナスの両方の効果があり、どちらの効果がより強いのかは実証研究をやってみなければ分からない。この最低賃金制度は特にその傾向が強く、押すのも引くのも微妙なところがある。

最低賃金についての実情をまとめると下記のようになる。

  • 古典的な議論では、最低賃金は失業者を増やす
  • 最低賃金がもし失業者を増やさなくとも、最低賃金ラインの前後で雇用を歪めることは自明。
  • アメリカでは、所得効果があったとする実証研究がある。これは雇用者優位により賃金が不当に低い場合があるからではないか、という説が有力
  • 日本での実証研究では、失業者を増やすという結果ばかり

私の場合、最初は教科書的な議論を信じていた。その後、前述のhimaginary氏のブログでも参照されているカード=クルーガーの議論を知り転向しかけたのだが、実証研究などいろいろ調べる限り、プラスであれ、マイナスであれ効果が小さすぎると感じ今に至る。

ようするに世間で話題にのぼるほどの重要な政策ではないのだ。労働を専門にする学者ならば、私のような素人でも知っていることくらい当然知っているはずなのだが、それにも関わらず最低賃金の引き上げを重要政策として掲げようとする。私は本当に馬鹿げた話だと思うのだが、該当のエントリコメントを見る限り、そう思わない人も少なからずいるようだ。

どうせリフレ政策なぞ当面実現しないのだから、最低賃金を支持する皆様は時給1万円くらいまで上げて本当に景気が回復するか壮大な実験をしてみればいいんじゃないでしょうかね。

[追記] 最低賃金について改めて考えていて気付いたのだが、アメリカではプラスの結果が出るのに、日本ではマイナスの結果しか出ないということは、もしかして景気が良いときにはプラスの効果の方が強くなって、景気の悪い時にはマイナスの効果の方が強くなったりするということなのだろうか。

景気の良いと平均賃金は上がるが、ブラック企業はそれに合わせて賃金を上げないかもしれない。そのような状況であれば、最低賃金の上昇は所得効果として現れてくるだろう。

逆に景気が悪いと平均賃金は下がるが、最低賃金の下落は遅れるので、結果的に賃金を高止まりさせてしまう。このような状況で最低賃金を上げても所得効果など発生する余地はない。結果として失業率の増加のみが現れる。