グレゴリー・クラーク著「10万年の世界経済史」を読む

産業革命以前、以後、そして、なぜ産業革命が起こったのかを計量経済史の視点から分析した本である。ジャレン・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」に連なる書物と言ってよい。

最近どうもtwitterのせいで長文を書くのが面倒になっており、書くつもりではなかったのだが、控え目に言っても著者の主張を読み取りやすいとは言い難い(書いてはあるのだが、余計な話が大杉)本であり、忘れないようにメモを残しておきたいことと、山形浩生氏がAmazonにネガティブな評価を書いていた(いやまぁ、大半はその通りだとは思うが)のだが個人的にはそこまで悪い本だとは思わなかったことの二点があり、書評というより覚書に近いがエントリを起こすことにしてみた。

本書は、前述のとおり、産業革命をはさみ、産業革命以前、産業革命産業革命以後の分析の三つの切り口で作成されている(実際の章立てはこれより細かいが、読んだ感じとしては三章構成として読んだ方が読みやすい)。

それぞれの章で裏付けとなるデータが大量に提示されるが、要点をまとめると以下のようになる。

  1. 産業革命以前はマルサス人口論の人)的経済であった。
    • 産業革命以前はほとんど成長がなく、水準としては石器時代並みの状態がずっと続いてきた。
    • マルサス的経済とは、技術進歩が人口の増加となり、ひとりあたりの生産性が向上しない社会。所得水準は人口で決まるため、出生率と死亡率が重要な要因となる。出生率が上がると貧困が進み、伝染病で死亡率が上がるとむしろ豊かになる悲しい社会。
    • アダム・スミスが発見した原理は、残念ながら当時の社会では役に立たなかった。
  2. 産業革命は長い間蓄積された技術革新と労働者の能力向上の一致により起こった。
    • 技術革新は、1100年代から継続的に起こっており、産業革命期に突然起こったわけではない。また、農業の生産性向上は、産業革命より後に起こっている。技術革新は、下層の人々の生産性を上げるような技術ではなかったため、経済全体を大きく押し上げることはなかった。
    • イギリスでは、産業革命直前に識字率などが急速に上がり、技術革新を有効活用できる体制が整った。産業革命は日本や中国でも長期的には起こりえたが、イギリスで起こったのは人口に占める中産階級が多く一歩リードしていたから。
    • 産業革命において特許権などのインセンティブを活用する制度はまったく役に立っていなかった。
  3. 産業革命以後は効率によって決まる社会となった。
    • 産業革命以前と以後の違いは、生産力が土地や人、生物に縛られず生産効率によって決まるため大きく成長することができる。資本蓄積は、効率向上の結果であり原因ではない。
    • 国により生産効率が違うのは、労働者の質の問題。著者は、なぜ労働者の質が違うのか、に関してはわからない、としている。
    • 著者はインセンティブをもたらす制度の不在が発展途上国の貧困の原因ではないことからIMFの行動を批判している。が、山形氏も言うようにたしかにこれは変。インセンティブをもたらす制度により教育水準などを向上させることで、問題が解消できるかもしれないわけだから。

まぁ、こうやってまとめるとそれほどおかしなことも言ってないと思うのだよね。驚きが少ない、というのはその通りかもしれないけど(私は詳しく知らなかったので新鮮でしたが)。

10万年の世界経済史 上

10万年の世界経済史 上

10万年の世界経済史 下

10万年の世界経済史 下