R.E.バーガー著「大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか」を読了

翻訳は良くないが、本自体はなかなか良さげ。特に今の日本の状況を考えると非常に重要な本になりそうである。とりあえず、野口旭氏の言うように「マクロ安定化策としては金融政策を使うのが中心」であったり「財政政策の効果は薄い」という理解こそが経済学の常識であるということが概ね正しいと裏付けられたことは大きな収穫だった。

一般には、ニューディール政策や第二次大戦によるケインズ政策財政出動)が大恐慌からの脱出策だったと思われているが、実証研究からは支持されていない。実際には金本位制からの脱退によりマネーの流れが自由になったこと*1や、第二次大戦の戦費がショニレッジを財源としたことにより事実上の金融政策が行われた影響が大きかったというのが正しい理解のようである。

ただし、本書にて述べられるように、大恐慌の真相には複数の見解がありまだ結論が出ている段階というわけではない。だが、構造改革が必要だったという論者がひとりもいなかったことだけは強調しても良いだろう。経済学ではこれが正解という結論が出ないことも多いが、それが不正解を指摘できないということを意味しているわけではない。

この本の最初に挿入される「大恐慌概説」を読めばわかるように、今の日本の不況は極めて大恐慌とそっくりである。最後にフリードマンの言葉を引用したい。

(インタビュアー)私たちは今日もまだ大恐慌という戦争と戦っているのですか。
フリードマン)そうです。ある意味で私たちは未だに大恐慌という戦争と戦っているのです。新たな大恐慌が起きること、これは誰もが一番心配していることです。さらに私たちは歴史から学んでいます。ただ、日本で今日起きていることを考えると、これはちょっと疑わしいですが(笑)。

大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか

大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか

*1:当時、変動相場制に移行していた国はまったく大恐慌の影響を受けておらず、早期に脱退した国ほど回復が早かった