ティム・ハーフォード著「まっとうな経済学」を読む

最近、時間が無くて読み進むのが遅すぎ、という愚痴はともかくやっと読み終わったので感想をば。

二匹目のドジョウですか! というタイトルだが、原題は「The Undercover Economist(覆面経済学者)」ということでパクリではないようだ。てゆうかタイトルだけ見ると全然まっとうじゃないやん、とか突っ込みを入れたくなる。

とはいえ本文を読み進めれば、日本語訳のタイトルがごもっともに思えてくるから不思議だ。ヤバい経済学は、どちらかと言えば古典的な経済理論ではなく実証で勝負の感があったが、本書はよく知られた経済理論を核に様々な事象を説明したまさしく「まっとうな」経済学啓蒙書として書かれている。では、つまらないかと言えばそうではない。

各章で紹介される理論は、どの教科書にも載っているような当たり前のものだが、それが著者に手にかかると見事なエッセイに変化する。どの説明も具体性に富み、経済学の成功例だけでなくうまくいかなかった例なども引き合いに出しながら新しい視点を提供することに成功している。

特に興味深かったのは、競売の章であろうか。電波の競売は経済学のよく知られた成功例であるが、勝利を勝ち取るまでにこんな苦労があったとは思いもよらなかった。なるほど、考慮しなければならないインセンティブの範囲は予想外に広いもので経済理論の適用も一筋縄ではいかないものなのだなぁ。

そういえば以前、bewaadさんのところで厚生経済学の第2定理について書いたところ、「まさに悩みどころ」とのことでいちごのスレを紹介され「実際には役に立たないんじゃん」とか思っていたのだが、本書を読んで重要な使い道に気付いた。厚生経済学の第2定理を「適切に初期配分をできれば平等でかつパレート最適が実現できる→でも適切な初期配分ってわかんないじゃん」と考えていたのだけど、「初期の配分さえすれば、共産主義のような形体を取らずとも平等を実現できる。すなわち、資本主義経済においても共産主義のように効率を落とすことなく平等にすることが可能」というように考えればよかったのだね。というわけで平等という観点からもマルクスの亡霊を排除できますた。よかった、よかった。

まっとうな経済学

まっとうな経済学