鈴木謙介著「サブカル・ニッポンの新自由主義―既得権批判が若者を追い込む (ちくま新書)」を読む

先日読んだ「“反転”するグローバリゼーション」は、専門書っぽい雰囲気もあったのでそれがよくなかったのかもしれぬ、と思いなおし「サブカル・ニッポンの新自由主義―既得権批判が若者を追い込む (ちくま新書)」を読んでみた。

グローバリゼーション本とは異なり、きちんと主張や目的も述べられずいぶんわかりやすい本になっている。グローバリゼーション本は単に出来が悪かっただけかもしれない。

しかし、この本を読むと、なんで鈴木謙介氏が「今の状況ていうのは不況じゃないんだ、構造変動なんだ」などと発言したのかよくわからなくなってきた。少なくともこの本で著者が述べていることは、あくまで不況によって生じた社会の構造変動についてであり、そして、そこで記述される事実認識は極めて正しい。

たとえ、不況が日銀による本当にしようもない失策から始まろうとも、それによって発生する不況は国民の経済状況に多大なダメージを与える以上、不況により人々の思想や行動がどのような影響を受けたのか分析することは社会学者に求められていることであろうし、特に違和感はない。

しかしながら、氏曰く、「世界の産業構造の変動に対するキャッチアップが遅れていることを、ここでは問題にしています」とのことであるが、その認識はどう考えても事実ではない*1と思われるので、認識を改める方がよろしいように思う。

*1:日本経済についての議論の中では、Hayashi・Prescott論文から始まるTFP低下を原因とする見解に近いと思われるが、ここにある通り現在では否定されていると考えるべきであろう。