なぜグローバルな格差は生まれたのか

昨日に引き続き「不平等について―― 経済学と統計が語る26の話」より、興味深い話を抜粋。

世界が極めて不平等な場所であること、それも特殊なかたちで不平等であること、今日の不平等の大半は各国間の平均所得の格差に起因することを、これまで検討してきた。各国間であまり移民が行われない場合、所得は決定的に国籍、つまり生まれた場所に左右される。豊かな国に生まれた人は、出身地に基づく賞金を受け取っている。貧しい国に生まれた人は、出身地に基づく罰金を課されている。

このような世界では、生涯所得の大半は生まれたときに決まってしまう。より正確には、回帰分析で世界中のあらゆる人々の実質所得……と、所属する国の平均所得をプロットすると、世界の所有のばらつきの60パーセント以上が、生まれた場所で説明できることがわかる。加えて、生まれた国の平均所得(1人当たりGDP)が10パーセント上昇するたびに、その国の国民ひとりひとりの所得も10パーセント上昇するので、国内の不平等が世界の所得分配に対して果たす役割はごく小さいということになる。全国的な影響はその国の国民すべてに多かれ少なかれ等しく影響を与えるからだ。国が違えば、所得水準も大いに異なる。それこそが世界的な不平等の主たる原因である。

似たような話として、現在心理学の分野では人間の知能の80%は生まれたときに決まってしまうとされています。「心理学で何がわかるか (ちくま新書)」では、その要因は遺伝子によるものと説明されていますが、「頭のでき―決めるのは遺伝か、環境か」にて、著者のニスペットは、そうではなく環境によるものもその半分程度は占めている(すなわち教育も重要である)と主張しています。しかしながら、ニスペットの主張においても両親の社会的地位や年収が子供の育成環境を決定づけてしまうという点で「知能は生まれで決まってしまう」という事実は否定しようのない前提として置かれています。

たしかに、裕福な環境で生まれれば、愛情たっぷりの保育、高度な教育、知的な友人に囲まれて育ちますし、取り巻く社会環境も高度な教育に見合った高収入をもたらす職が用意されています。一方、貧乏な環境で生まれれば、粗暴で学のない親、低年齢からの労働、ギャングやドラッグを勧める友人に囲まれて育つことになるかもしれません。後進国や地方では、たとえ秀でた頭脳を持っていたとしても、それを活かす職は提供されませんし、需要もありません。会計コンサルタントの知識はウォール街では大きな需要があるでしょうが、アマゾンの奥地ではそのような需要などないでしょう。

グローバルな格差なのだから、グローバルな要因によるものと考えがちですが、実際には地域の僅かな格差が累積して拡大し続けた結果に過ぎなかったわけです。この事実が知られたからといって即座にグローバルな格差が解決するわけではありません。しかしながら、グローバルな格差を先進国による後進国の搾取と決め付け、誤った解決策に走ってしまうことだけは避けることができるのではないでしょうか。

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話

不平等について―― 経済学と統計が語る26の話

心理学で何がわかるか (ちくま新書)

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頭のでき―決めるのは遺伝か、環境か

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