「業務系SEの末路的なお話でして」と一人当たりGDP

業務系SEの末路的なお話でして」という資料が一部の人々(というかソフトウェア業界人に)の話題になっています。

この資料自体は業界人的には、現在置かれている絶望的状況を的確に記述しているように思うわけですが、6スライド目にある給料の状況を見て「日本の技術者はアメリカの技術者に比べ不遇なのではないか」と捉えると大間違いなので注意が必要だと思います。

まず、これらの国の一人当たり購買力平価換算GDPを並べてみます(一人当たりGDPを比較する場合は、為替レートの一時的な変動を無視するために購買力平価で調整するのが一般的)。

一人当たりGDP 倍率(日本=1.0)
アメリ 48,327.86 1.39
中国 8,386.68 0.24
インド 3,662.69 0.11
ベトナム 3,358.62 0.10
韓国 31,220.48 0.90
ロシア 16,735.78 0.48
デンマーク 37,047.87 1.07
フィンランド 35,980.97 1.04
日本 34,748.15 1.00

これを見て気付くことはなんでしょう。グラフの倍率とほとんど同じですね。ようするに6シート目のグラフは、IT技術者の給与水準を比較したというより各国の平均的な給与水準を比較しているに過ぎません。

多くの日本人が勘違いしていますが、国全体のGDPとして見れば日本は世界第三位の国ですが、一人当たりGDPで見れば、先進国の中では最下位グループです。言い換えれば、日本の技術者がアメリカの技術者に比べ不遇なのではなく、日本はアメリカほど豊かではないだけです(日本は豊かだからこれ以上成長しないのだ、というアホらしい考えを持っている人はそろそろ考えを改めるべきでしょう)。

日本の技術者の給料水準を上げる方法は、日本の生産性が上がり経済成長するしかない、と言ってもいいでしょう。

なお、私見ですが、日本の生産性を上昇させるために日本の「システム開発の」技術力を高めることはほとんど意味がないと思っています。なぜか。

日本のシステム開発は、その業務の性質上、製造業というよりサービス業だからです。家電のように同じ製品を世界中に販売する業種と異なり、日本のシステム開発は一点物の手作りが主流です。技術力が多少上がったところで、それが自動車や洗濯機のように人々のライフスタイルを変え大きく生産性を改善するわけではありません。

また、システム開発は通常「投資」として行います(工場をイメージすると良いでしょう)。投資はそれを有効に活用出来た場合は、生産性改善に大きく寄与しますが、利用されなければただのゴミです。今、日本は不況まっただ中にあり、投資しても将来有効に使われる度合いは低いことが予想されます。顧客企業が積極的に投資できるくらい景気が良くならないと、システム開発をしている我々への恩恵もそれなりということですね。

日本の技術者が救われるためにはどうすれば良いか、と考えると結論としては、アメリカに逃げるか(笑)、日本の首脳陣がまともなマクロ経済運営を行なってくれるよう祈るしかないのではないでしょうか(ため息)