誤解しやすい専門用語
という問題は、おそらく誰もが違和感や不満を感じていながら、変えるのが大変で、なおかつ本質的な意味は微塵もないという意味で、非常に難しい問題である。
有名なのは常数・恒数・定数という奴で、すべてconstantの訳語。ようするに同じ意味である(他に不変数という呼び方もあるらしい)。概ね数学では常数、物理では恒数、工学では定数だったらしいが最近はどの分野でも定数に落ち着きつつあるらしい。しかしながら、これまた定数も「じょうすう」と「ていすう」の二つの呼び方があり、これは分野というより人によるようだ*1。
初めて見た時ずいぶん面食らったのが、工学でエネルギーをエネルギと記載することか。これは元サイトが消えてしまったのでねたぶくろを参照していただきたいが、工学系の戦前からの習慣とのことで結構歴史があったりする。
変数の使い方といえば、電気工学ではiは虚数ではなく電流である。そのくせ、複素数表現は超重要なあたり良くわからんところがある(その場合は、iの代わりにjを使う)。ベクトル表現で高校までは→を使うが大学に入るとボールド体を使うようになるのも理由がよくわからんのだが、歴史的に何かあったのだろうか。
微分にダッシュではなくドットを使うのはニュートン由来だったっけ。時間微分だとドットを使うが位置の微分だとダッシュを使うといったローカルルールもあるらしい。微分といえば経済学では限界という言葉*2で初学者を悩ませてくれるが、時間が経つと愛着に変わっていたりする。これは馳夫でなければ違和感を感じるのと似たようなところがある。
経済学で縦軸に独立変数を横軸に従属変数を書くのは個人的にはかなり混乱させられたのだが、マーシャル由来らしい*3。変数にπを使うのも個人的には違和感があるのだが、経済学者も違和感を感じないのだろうかとか思わんでもない。
一般的には会計学と経済学は一緒くたに見られているが、費用という概念ひとつとっても別物であったりする。一時期流行ったモラルハザードという言葉が経済学用語であり、倫理崩壊という意味ではないというのは有名な話だが、ある意味そのような一般用語っぽい専門用語を作った経済学者の自業自得の面もあり、専門用語をつける際には教訓にしたい出来事である*4。
そういえば、大昔化学の式は恒等式でないから数学的に正しくないという議論を聞いたことがある(平衡時にしか成り立たないという意味)。よく考えてみると物理学だって光速を超えて関係性は維持できないわけだから、場合によっては同じようなことが起こる。ようするに数学的にどうこうというのは、どうでもいい話で、結局のところ、科学にとって数学はただの道具に過ぎないということなのであろう*5。
このように、一見学術的に見えるこの問題も実は異文化コミュニケーションの問題であったりするわけで、理解の困難さを理由にしても仕方がないのであるが、まぁ文句のひとつも言いたくなる気持ちもわかるので、飲み屋談義としては有意義であるかもしれない……って何だその結論は(w