高野史緒「ムジカ・マキーナ」をやっと読み終わる。第一部はしんどいけど、二部以降は確かにさくさくと行きますな。デビュー作としては異彩を放っておきながらも賞を取れなかったはわかる気がする。なんだか色んな意味でビミョーな作品であります。まあ、アルビレオで読書会をやるので細かい話は後に取っておきませう。



小池壮彦「怪奇探偵の調査ファイル 呪いの心霊ビデオ」を読む。小池壮彦なので、いつもながらの調査・行動系の話を心霊ビデオでやるのかと思ったら、帯に書かれた「心霊ビデオの見方を怪奇探偵が伝授します!」と書いてあるとおり市販の呪いものとかジャンクものとか心霊ものとかのビデオの解説本だったりしていつもとは趣きが異なってます。
私としては、過去に有名となった「幽霊の掛け軸がまばたきした」といったものの背景の調査等を期待していたのだけれど、この本の内容はどちらかというと「トンデモ本の世界」に近い。ようするに小池壮彦がマニア的な視点から怪奇・心霊ビデオを愛憎まじえ解説してくれているわけです。
小池壮彦の文章はすごく読みづらくつまらなく感じてしまうことが多いのだが、今回はフランクな文章が主体でそんなこともなく、本音が見え隠れしたりするのも面白い。特にジャンクビデオの項の注釈は秀逸。例えば「……ガーナの心霊儀式の映像では、治療師が女の子の目をグリグリほじくって血が噴出している。しかし何の傷跡も残らない。」という部分に「何の傷跡も残らないのは、映像で見る限り、わりと名人芸の感がある。」とか、「現場に到着すると、例によってベッドで暴れまくる少女がいる。売れない劇団風の母親がわざとらしく泣き叫んでいる。司祭はやる気なさそうに聖書の文句を唱える。」に対しては「インタビューの段階で、すでにやる気はなさそうだったが」とか。
まあ面白いんだが、小池壮彦がこんなもの書いてていいんだろうかとは思わんでもない。こういうことを求められている訳ではない気が……。

ちなみに私がお薦めする心霊ビデオは……市販されているものの中では一個もなし。ちょっと想像すればわかるけれど映像で心霊というのは嘘で作るとなると写真の百倍は難しい(だからこそ中田秀夫や鶴田法男は苦労してきたわけで)。というわけで、どんなにうまく作っていても人間が見れば普通はすぐにフェイクであることがわかってしまって盛り上がれないこと請け合いである。
とはいえ、逆に本物のように思える心霊ビデオは心霊写真の百倍リアリティがある。そういうものがあるかといえば……ある。もちろん前述の通り市販のものではない、となると何処にあるかというと単に視聴者から送られてきてテレビで放送されたものの中にある。ただし、大体心霊番組に送られてくる奴はいい加減なものが多く、その反面、普通のバラエティ番組の夏の恐怖コーナーに送られてくるものの中に掘り出しものがあったりする。
私は、この手のものが大好きなので結構な数は見たと思うけれど、これは本物かもと信じたくなる心霊ビデオは三本しかない。ただし、私は基本的に録画はしない方だし、当時は子供で扱いもわからなかったので手元には持ち合わせがないので念のため。
どういうものだったか解説しておくと、ひとつは昼間の田園風景を少し離れた場所からハンディカムで映したという普通の映像で、画面左端におじさんが立っている(しかも本当に普通のおじさんのように見える)というだけのものである。何が不思議かというと、撮影者が一旦右にパンして元に戻す、するとおじさんがいなくなっている。パンが一瞬で自然なものであったのとおじさんは普通に立っていて歩いてる様子もなかったので「何で?」という気持ちになる。今考えても、なぜこんな風なことが起こるのかよくわからない。確かこれは「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」の後番「KATO&KENテレビバスターズ」の合間のビデオコーナーで放送されたものだったと思う。
二つ目は、ホームビデオで変身前と変身後の映像を撮影しておいて繋ぎ合わせることで変身したと見せかけるというちゃちなSFXビデオである。たぶん、学生が友達の家に集まって面白半分に作ったものなのであろう。もちろん、別にこの変身シーンが問題なのではなく、この前半(すなわち変身前)の映像に変なものが映っているのである。画面から見て被写体の後ろはガラス戸になっているのだが、その上端の端っこに人間らしき顔がヌッと出てくるのである。しかも、ヌッと出てきたところで変身後のシーンになり、このときはもちろん何も映ってない。この時は、番組でも検証実験をしていて、スタッフが同じ場所から顔を出してみたものの映像中の顔に比べ小さすぎることやリアルすぎることではっきりと違いがわかってしまう。というよりも実際の映像の顔が余りにも不気味なので信じざるおえない気にさせられてしまう。撮影状況もSFXの撮影という偽ビデオを作るにしては変な状況なのもリアリティを持たせている。これは夏の心霊特番か何かだったような気がするが、よく思い出せない。
三つ目は、前二本など目じゃないほど強烈なビデオである。このビデオ、どっかでまた流してくれないかと期待しているくらいである。撮影の状況は、撮影者のカップルがよく事故が起こるというトンネルへ通じる道を車で走りながらビデオをまわすというもの。撮影者達は別に何も起きなかったねと家路に付きビデオを見てみると車がよく突っ込むというトンネル直前のガードレールの所に変なものが映ってると。まあ、ここまでは普通の話だが、問題はその映像である。撮影自体、車からのものであるのでそれなりの速度でいて何となく変なものが映っている程度しかわからないのだが、スローでその部分を再生してみると、なんと二体の人間の形をした白いもやもやっとしたものと発行する玉が空中を漂っている光景が映っているのである。しかも、一体はおいでおいでというように右手で手招きしてるし、もう一体は道の片隅で蹲ってるし、もうひとつの玉は、ちょっと距離がはなれガードレールの向こう側の空中を八の字にクルクル回ってるしと、とても作ったとは思えない異常な光景が映し出されているのだ。これこそ真の心霊ビデオであると思うのだが、世の中でこのビデオの話題に触れている人がいないので寂しい限りである。これも「KATO&KENテレビバスターズ」で流されたものだったと思う。
この手の昔、番組で放送されたというやつは、事実上二度と見ることができず、悲しいかな本当に幻のビデオになってしまっている。誰か録画してないかなあ。